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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
正直者は馬鹿を見る

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険しい山越え(2)

 ロワウス家のリフトリムジンは大型である。ライジングサンの三人を迎えても大幅な余裕がある。パトリックはゼーガン家の人間だけあってどっしりと座っているが、ルオーは尻の落ち着かない様子で面白かった。


(クーファが平気なのはちょっと予想外だったけど)

 ミアンドラは不思議に思う。


 恐縮するでも騒ぐでもなく、ただ備え付けのドリンクやお菓子に夢中になっている。閉鎖型ボディで外の様子はパネルモニタ越しにしか見えないものの、それを気にする様子もない。


「他の二社はどうなさったんです?」

 ルオーが気を紛らわせるかのように問い掛けてくる。

「慣れてるんだそうよ。下見しなくて大丈夫だって。少しは頼れそう」

「やっぱりですか。まあ、あちらはあちらで思うとこあるでしょうし」

「なぁに?」

 寝ぼけ眼で「気にするようなことじゃありません」と答える。

「あなたたちはびっくりするかもね。実戦さながらに広大な範囲が試合会場に設定してあるから」

「どんなんでしょうね? ここ数年分は軽く予習してきましたけど」

「毎年設定違うから。今年は渓谷ステージよ。谷底にも上にも森林があるから障害物だらけ。宇宙が仕事場の人は苦労するんじゃなくて?」


 かなり複雑な地形で設定している。もちろん指揮力を測るためであり、さらには娯楽性も高めてある感じだ。国民向けのライブ中継はないが、後ほど編集して公開される。


(事故が絶対ないともいえないし。その場合はカットされて公開されるから)


 殉職のショッキングなシーンは不向きである。国民の軍閥へ向ける目が悪化しかねない。それに配慮する措置であった。


「オレらだって惑星上のミッションも結構あるんだぜ。それこそ居住惑星だけでなく、空気も水もない惑星とかな」

 パトリックの発言に興味を惹かれた。

「なんで? 居住惑星以外で軍事的な仕事なんてあるの?」

「例えば不測の事態から研究探索者を守る依頼(オーダー)とかさ。武装があると色々排除できるし、なにより国軍を動かすより安上がりだ」

「そうなのね。予想もつかなかったわ。勉強になる」

 民間軍事会社(PMSC)とは実に多岐にわたる仕事をしているようだ。

「ねえ、他には?」

「色々あるぜ。聞きたいかい?」

「教えて教えて」


 パトリックから過去の変わった仕事の数々を聞く。しっかり勉強しているつもりなのに世の中は広いと感じた。国軍に入隊すれば宇宙に出て様々な経験をするものだろうか。


(机上だけじゃわからない。子ども特有のしがらみを脱ぎ捨てて早く大人になりたい)

 少女は希望を抱く。


 時間はたちまち過ぎていき、試合が開催される地域に到着する。途中からの道なき道も反重力端子(グラビノッツ)搭載タイプのリフトリムジンなら滑るような速さで走った。


「さて、どうしましょうか?」

 リムジンから降りたルオーが尋ねてくる。

「渓谷の上を移動して色んなところを観察しようと思うの。もちろん撮影も」

「では、これを使いましょう」

「それ?」


 彼がポーチから取り出したのは小型ドローン。全長は20cmほどの、空気噴流ジェット方式の小さなドローンだった。


「当日はこの辺り一帯にターナ(ミスト)を散布されて実戦形式の対戦になるんでしょうが今は電波干渉は受けません。自由に飛び回って見れます」

 そう言って頭をコツコツと叩く。

σ(シグマ)・ルーンに接続するのね?」

「はい。録画機器にも繋げておきましょう。あとで幾らでも分析できます」

「機転が利くわね。偵察にはもってこいだわ」

 接続作業を始める。

「まあ、どこの陣営もやっていることだと思いますけど」

「そ、そうかも」

「契約会社に任せてるかもしれません」


 もっともなことを言われる。とりあえず今年は参加することに意義を感じてたとしても、あまりに不用意だと思って赤面した。


(こんなんじゃいけないのに)

 彼らの力を借りないと勝負にならないところだった。


「誰が動かします?」

「えーっと。じゃ、ルオー、お願い」

「順当だな」


 二人はアームドスキンパイロットなのでσ(シグマ)・ルーンを着けているし、ミアンドラもアームドスキンに乗る。クーファも操船オペレーション用にミドルクラスのσ・ルーンを着けていた。

 ただし、ルオーのものは額まで回っているアームドスキン用のハイクラスの上を行く器具に見えた。そんな理由から彼を選ぶ。


「じゃあ、飛ばしますね」

「いいわよ」


 σ・ルーンからパノラマモニタを出して視界を切り替える。これからはドローンのカメラが皆の目代わりになる。渓谷の上からストンと落ちるとお尻がむず痒いような感覚になる。


(操縦するのとはまた違う感じ。どっちかというと実機シミュレーションに似てる。加速感がないからだわ)


「アミューズメントのバーチャルマシンみたいで面白いのぉ」

 クーファは楽しんでいる。

「まずは谷底をざっくりと巡ってみましょう」

「ああ、戦況次第だが主戦場はそこになるだろうしな」

「どうして?」

 パトリックの指摘に疑問を挟む。

「開けたところだと狙撃が気になる。砲撃戦じゃ勝負が遅いから、バトルロイヤルで不利になるじゃん」

「本当ね。思いもしなかったわ」

「結果、障害物を上手に使えた部隊が有利になるのさ」


 ミアンドラはパトリックの戦術眼に感心した。

次回『険しい山越え(3)』 「帰らせてくれればな」

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