正邪重ねて(5)
ルオーが訝しんでいた事態の裏側がパトリックにも見えてきた。要は、ベスティア宙区の中心である惑星国家ベスティアがゼオルダイゼをそそのかして星間管理局を出し抜く計略。
(無茶もいいとこじゃね?)
気が抜けそうになるのをどうにか堪えた。
実際には星間管理局が目を光らせているので侵略という手段は使えない。しかし、独自に接触することは可能である。ベスティアがゴート宙区に入り込み、諜報活動するのは難しくない。
(ルビアーノは勘違いしたんだな。軍拡と勢力拡大を図るなら侵略して奪い取るものだって)
浅はかである。
持ち掛けられた話はおそらくではあるが、星間管理局の統制を受けず、各国が自由な発展を遂げられる経済圏の確立だろう。バックボーンとして秀でた軍事技術が必要で、それをゴートに求めるというものだったと思われる。
(迂闊にも露骨にやりすぎて周辺国家の反感を買って今に至る、か。ルオーに小物だって言われても仕方ないじゃん)
お粗末な経緯である。
「そんな単純でもなさそうですよ」
見透かされたように相方からの秘匿回線。
「不思議じゃないです? こうもあからさまなのに管理局が静観してるのは」
「まあ、放任主義ってのは当たらずとも遠からずだからじゃね?」
「ベスティア関連事案を注視し、内偵を進めているからと僕は思ってます。今の段階で大きな問題になり、ベスティアが暴発するのは避けたいと」
きな臭い名前が出てくる。
「だよな。あそこは外縁に対する防波堤。あんまりグラついてるとなだれ込んで来かねないってか」
「戦場でする話じゃないのではなくって?」
「ああ、すみません、ゼフィさん」
こちらも露骨である。その気になれば彼女に聞かせないように会話できるというのに、通常のディープリンク回線で話している。カマ掛けをしているのだ。
「当面の目標はゼオルダイゼに大人しくしていただくことです。まずはビクトルをどうにかしましょう」
「あいよー」
会話しつつも戦闘は継続している。彼らアームドスキンパイロットはマルチタスク上等くらいの感覚でないと実戦では通用しない。前しか見えない人間から死んでいくだけ。
(それでもまだ矛盾してんじゃん)
ゼフィーリアの機嫌を損ねないよう、続きは頭の中で。
(ルオーはバロム・ラクファカルがベスティアから来てるって言ったぞ。やつがベスティアからなんらかの使命を帯びてきてるならルビアーノに手を貸すはずじゃね? 実際には邪魔する方向で動いてる。なんでだ?)
まだまだ裏がありそうである。おそらく、相方の頭の中ではある程度の推論が立っているのだろうが明かすには至ってない。
(今のビクトルの話だって、記録されていても証言としては薄い。これを証拠に管理局がベスティアを追及するのは難しい。どうとでも誤魔化してくるだろう。ってなもんで、ゼフィちゃんはまだ動けないってか)
パトリックは納得した。
(もっとも、ベスティアなんぞ相手にするには協定者ルオーの協力無しでは無理って計算も働いてるか。悪くないじゃん)
「っりゃあ!」
彼女はとうぶん離れていけないとわかると気合が入った。
「貴様はぁ!」
「乗ってるオレちゃんを止めるのは簡単じゃないぜ?」
「っくぅ!」
彼を侮っていたであろうビクトルも目が覚めたはず。本当の強敵が誰なのか、この衝突でわからせた。
(うぐ!)
調子に乗ってるところに冷水を浴びせられる。
とてつもないプレッシャーが頭上から襲い掛かってきた。背筋がゾクゾクするほどの殺気を感じる。見上げると、作戦に従って傭兵部隊が本隊を迂回して敵陣の裏にまわるところである。当然、先頭には青いアームドスキンの姿もある。
(メトソール)
バロムの乗機だ。
(忘れてたぜ。これがどこから来た機体なのかも問題だった。もしかしたら、こいつこそが……)
ミッションブリーフィングでルオーと対立したばかりである。睨むような視線を送ってきているに違いない。それが、プレッシャーとなってライジングサンの戦闘宙域に降り注いでいる。
(まさか撃ってこないだろな)
万が一の不安がよぎる。
(ルオーは背中からでも撃つって言ったし、味方を足蹴にして自分が戦果を挙げることをするようならほんとに撃つだろう。本気を感じて、今のうちに処分とか考えるなよ)
上方を通り過ぎるメトソールの気配を感じつつ、そこまで考えてしまう。同じ殺気を浴びたビクトルも注意散漫になっていた。お陰で互いに隙だらけになっていた様子。
「くぅ!」
「なにをしてるんです、パット!」
クアン・ザのスナイピングビームがビクトル機のリフレクタを叩いた。ベルトルデに注意を向けていたか、大きくバランスを崩して流れていく。
「迂闊ですよ」
「すまね」
立ち直る隙を与えないよう連撃を浴びせる。回転させて左右に袈裟に落とすツイングレイブの強力な斬撃から逃れられないでいるビクトル。その後ろに白い天使が舞い降りた。
「ここで終わってくださる?」
「おおおっ!」
ヘヴィーファングの一撃は微塵も慈悲を感じさせないもの。躱しようもない一閃が肩口から入るが、無理やり機体を沈めたビクトルは脇まで削り取られるに収めた。
「終われるものか!」
「あら」
ブレードを放り出し、ビームランチャーを溶かさん勢いで連射する。片腕とはいえ周囲を敵に囲まれて、そんな状態の敵機を深追いできない。
(逃がしたか)
パトリックが肩を竦めるとルオーのため息が聞こえた。
次回『陰る暁(1)』 「そこまで計算してたんだ。バロム、頭いいー!」




