正邪重ねて(3)
パトリックはビクトルという強敵を前にしながら迷いの中にいた。自身の不甲斐なさに対するものではない。対外的な要因である。
(こいつをここで撃破していいのか)
判断に迷っている。
余裕があって手加減しているのではない。ほぼ全力で五分の戦闘になっている。だからこそ、なにか一つ思い切った攻撃に踏み込めば墜とせる感覚がある。
(墜としたらどうなるか。ゼオルダイゼには大ダメージで、かなーりショッキングなことになるな)
上手くいけば最終的には勝利を掴めるだろう。ただし、メンタルをやられて潰走する状態になれば別の場所にも波及。おそらく、戦闘艦隊は全部とはいわずとも一部は撤退を決意する。
(それも、艦載部隊を残して、だ)
要塞ロウザンガラクでの防衛ラインの構築が不可能になった今、軌道艦隊は防衛部隊の機動力の要である。失われるのは避けるべきという判断が生まれる。
(アームドスキンやパイロットは補充できても、戦闘艦はおいそれと補充できないんだよな。逃げる口実として戦闘艦温存という建前ができてしまう)
今回の作戦の重要ポイントは敵軍から機動力を奪う、つまり戦闘艦の撃沈が目的である。それなのに、軌道艦隊司令官や艦長に逃げる口実を与えるのは違う。
(だから、ルオーは強敵を手分けして抑えるって言ったのか。たぶんな)
相方の思惑を深読みする。
撃破ではない。張り付きにして動けなくするのが正しい答えなのだろう。少なくとも艦隊の防衛にまわれないようにするのが肝要だ。
(わかりにくいってんだよ)
ルオーのそういうところがときどき焦れったい。
パトリックは理解者であるつもりだが、全部を理解できているとは言いがたい。相方の洞察力は彼の遙か先を行っていることのほうが多い。
(ほんと、最高の相方なんだが最高の腹心じゃないから難しい)
一見、ルオーは腹心とかナンバー2とかに向いてる人物像に見える。本人は十分強いし、戦場でも脇に置いて不足はない。スナイパー適正というサポート役としか思えない才能もある。
戦略戦術に通じ、的確な指摘もできる。戦闘の流れを読み、ポイントとなるポジション取りも可能。視野も広い。
(ただし、だ)
腹心にするには思想が強すぎる。理想も高い。脇役として盛り立てるように見えて、その実操られている感も無きにしもあらず。パトリックの理想とは掛け離れている。
(間違ってもオレの野心を第一には考えてくれないもんな)
彼が英雄を目指すならば組織力が必要だ。要は褒め称え、心酔してくれる地盤がなくてはならない。
現状であれば民間軍事会社『ライジングサン』を大きくするのが近道である。しかし、相方にはそんな考えが微塵もない。
(遠まわりしてるって自覚あるのに離れられない。あまりに有能だから。ルオーはどこまでいっても相方だな)
パトリックは大きなことがしたい。ルオーは今のままでもいずれ大きなことする。ゆえに、傍にいるのが確実な道だと思えてしまう。
なにより居心地がいい。思想が強かろうが、絶対に彼を縛ろうとはしない。手伝ってくれるなら喜ばしいくらいの感覚でいてくれる。それが程よいのだ。
(まずはこいつと並び立つ。それからだ)
ある意味、吹っ切れた。
そう決意すると、目の前のビクトルが小物に思えてくる。妙な考えに固執して、我武者羅に突き進んでいるだけ。お世辞にも周りが見えているとは言えない。
「あんたはなにがしたい?」
思いに引きずられて訊いてしまう。
「真の統治だ。放任主義が生み出す混乱を治めるには力がいる」
「それがゼオルダイゼにはあるって? 結果はなんだ? 反乱じゃないか。人はあんたらの統治を良しとしなかった。そうなんじゃね?」
「無理解から来るものだ。痛みを伴わない変革はない」
ブレードを弾いてターンし、ツイングレイブの一端を突き入れる。スピンして躱すビクトルのカラマイダの機影を追って横に薙いだ。切っ先がギリギリをかすめるに終わる。
(完璧に間合いを見切られたな)
ツイングレイブの特殊な間合いは慣れてしまうまでが勝負。
(長引けばしんどくなる。だからって、この回転力から簡単に逃れられるものでもないぜ?)
見切られたから劣勢になるとはかぎらない。見切ったからこそ不用意に入れない場合もある。攻勢を緩めなければチャンスは来る。武器はツイングレイブだけではないから。
「痛いもんは痛いんだ。あんたやゼオルダイゼは、それに耐えられるもんを説いてきたか? 押し付けてきただけじゃん」
無理解と言い訳していると感じる。
「信じるものだけが救われる。世界は無慈悲でもある」
「それは欺瞞じゃね? 自分が高い理想を持ってるって思いたいだけだろ」
「誰が自己弁護をしているか。貴様のような頭の軽い者にはわからないのだ」
ツイングレイブを振り抜き際に左手を外してビームランチャーを取る。ターンしながら機体でブラインドを作って間髪入れず撃つ。ビクトル機はかろうじてリフレクタで逃げた。
反動で飛ばされ、生まれた隙間に応射しようと試みるビクトル。しかし、それはルオーが見逃さない。発射直後のビームがプラズマボールに変わってカラマイダを焼く。
(とんだ頭でっかちに育ってんな。ルビアーノとその後ろにいる連中にとっては、ちょうどいい道具に成り下がってるって。情けない)
パトリックは程よいダメージを入れるチャンスを窺っていた。
次回『正邪重ねて(4)』 「お前、反抗期には遅すぎね?」




