正邪重ねて(1)
(タリオン様はさすが。エスメリア様はこれでなんとかできるだろう)
ボンボのゾル・カーンの随伴機を狙撃したルオーは再び強敵に向く。
一閃のビクトルのハイスラストタイプのカラマイダをパトリックとゼフィーリアが相手している。ベース機体はヘヴィー&タフ型のカラマイダの欠点が修正された機体は遥かに機動力を増していた。
「少しでも足留めできません?」
「やってる気なんだがよ、こいつ、なかなか」
実際パトリックはかなり頑張っていると思う。アームフィンタイプのベルトルデは機動力ではビクトル機に後れを取らない。しかし、激突したときのパワーで若干押されている感じ。パワーでも同等のはずなのだが、それは相方が普段からパワー頼りの戦い方をしないので慣れていないからだ。
「追い込めないかしら?」
「いや、ゼフィちゃんに押し付ける気になんないじゃん」
ヘヴィーファングでは全く追いつけない。ゆえに、ゼフィーリアが半ば機能していない状態である。彼女のパイロットスキルならば刹那の接触でもどうにかしてしまいそうに思うが、パトリックのポリシーとしてそれはやりたくないのだろう。
「仕方ないひと。隙を狙うしかないのね」
「それでお願いちゃーん」
彼女は追おうとせず、動きを読む方向にスイッチした様子。ビクトルの随伴機を近づけないようにしているルオーに合わせ、掻いくぐってきたゼオルダイゼ軍機の相手もしてくれる。
(悪くはない状況。このままつづけられるけどさ)
ルオーは全体を見る。
(今はちょっとキツめだけど、両翼のモンテゾルネとマロ・バロッタが包囲に入ればそれどころでなくなる。傭兵が背後にまわればもっと楽になるはずだけどそれは当てにしすぎないようにしなくちゃ、か)
バロムは良くいえば臨機応変、悪くいえば気まぐれだ。段取りよく背後に入ったとしても、そのまま包囲の蓋の役割をしてくれるともかぎらない。ましてや、彼への反感から別の動きをしてくる可能性がある。
(じゃなくても、この流れはおかしいねぇ。バラーダブラザーズはともかく、ビクトルまで来たのは妙。普通に考えれば、いつも対戦している傭兵に備えて控えていても変じゃない。押し付けられた感があるなぁ)
前面に出てきたとはいえ、ライジングサンにかかずらっていたらソルジャーズの突進を受けたところが崩れる可能性が高い。気づいてから動き出しては遅いのだ。
それなのに強敵は彼らにばかり襲い掛かってきた。なんの意図もないとしたら敵司令官はあまりに無能。平和ボケした国ならともかく、ゼオルダイゼで生き残れたとは思えない。
「もれてる、か」
『作戦がー?』
ルオーの独り言にティムニが応じる。
「そんな気がします。確かに正面の僕たちが崩れると包囲の前提が壊れる。でも、全力を注ぎ込むのはリスクが高すぎると思いません?」
『バロム・ラクファカル本人と取り巻き連中とかの交信はチェックしてるんだけどねー。しょーもない自慢話しかしてなくてつまんないのー』
「気苦労察してます。すると、別に協力者がいる?」
普段は関係の深くないポジションにいる誰かが画策しているのかもしれない。しかし、手を広げたら際限がなくなってしまう。ティムニにはもっと有効に時間を使ってほしい。
「そちらはまたにします。今はビクトルに集中しましょう」
『するー』
アバターが頑張るポーズをしている。
「クゥもぉ」
「お願いしますね」
「ディープリンクぅ」
クーファも加わって処理能力が上がる。センサーの取り込み量は普段ルオーの許容力に合わせて制限されているが、それが解放されて周りがよりよく見える気がした。
ゼオルダイゼ軍の全容だけでなく、ビクトルとパトリックが描く軌跡までもが明確に認識できる。俯瞰すると、お互いの駆け引きによってできる穴も見えてくるのだが、スナイピングショットを差し挟めるほどでもない。
「近づけば……」
距離があれば、スナイピングビームの速度でもごく微小なロスが生じる。それが邪魔になっていた。
(あのときの感覚がよみがえってくる)
ガンゴスリが連合軍として参入し、初めてビクトルと接触したとき。
(咄嗟に攻撃を弾いたけど、自分でも未だにあれ、意識してやったのかどうか自信ないんだよねぇ)
ビクトルの放ってきたのはブレードだったのだ。しかも、死角から至近距離で喰らっている。そのとき、彼は確かに斬撃軌道が見えたような気がした。
いつもなら射線しか見えないのに、だ。それこそ、子どものヘロヘロパンチでも確実に避けきれないと思っている。なのに、目視できていなかった攻撃を受け止められたのだとしたら見えていたとしか思えない。
(見えてたのかもしれない。クゥに手助けしてもらってる今ならもっと見えるかもしれない)
その可能性はある。
(でも、あの感覚はスナイパーとしての僕を終わらせてしまうように感じてしまうんだよ。それが怖くて、つい否定したいんだよねぇ。結局のところ臆病者なんだよ、誰も認めてはくれないけども)
ルオーは情けなくも踏み出せない自分を嘲笑った。
次回『正邪重ねて(2)』 「変なフラグ立てんじゃないよっと」




