ひそむのは(5)
耳障りな笑い声のボンボ・バラーダが絶句したのはいい気味だと思った。おそらくエスメリアが言ったことの意味がわからなかったのだろう。しかし、彼女には戦況マップで現在の状態が手に取るようにわかっていた。
「お前、なにを……」
「説明するまでもない」
周囲は開けている。第一戦隊がビーバ・バラーダごと敵前衛の半分をえぐり取っていった。さらに第二戦隊も勢いのまま、残り半分を押しのけている。司令官のミアンドラがそれを共有されるマップ上で指示しているのは承知済み。
その状況を見落とすはずもない男がいる。彼にとってはわずかな隙間があれば十分なのだ。それが戦局を左右すると見れば確実に狙ってくる。
「な!」
一撃でボンボの随伴機が一機真っ二つにされた。もう一機も胸に大穴を開けられて漂いはじめる。そして、最後の一機がリフレクタを掲げたところで脚に直撃を受け、前のめりになったところを頭から貫かれて爆散した。ほんの数秒の出来事である。
「ルオー・ニックル!」
「慌てずとも、貴殿の敵は眼の前にいる」
「お前など!」
エスメリアがボンボを抑えるという最低限の仕事をすれば攻め手は一気に広がる。そのためのお膳立てを青年がしてくれた。彼女は役割に集中すればいい。
(最低限以上の仕事をしてみたいものだ。撃破までいかずとも、大破させて後退させられれば上出来だろう)
今ならできる気がする。
名のある強敵ではあるが孤立している。エスメリアには戦隊メンバーの二つの編隊八機がついている。この条件で取りこぼすようなら戦闘隊長の肩書を返上しなければならない。
「すぐに片づけてスナイパー野郎を仕留める。兄貴は連れてかれちまったが、ビクトルを相手にして余裕があるわけないぜ、ぎゃはは」
「一閃にはライジングサンが総掛かりで当たっている。果たしてどの程度もつか?」
「馬鹿言うな。ゼオルダイゼ軍に君臨するトップエースだぜ、ぎゃはは」
バラーダブブラザーズでさえ認めるほどの実力なのだろう。ただし、彼女の知るかぎり、ライジングサンは最強のユニットである。おそらく、ロワウスの若獅子でもパトリック一人に手こずる。ルオーまでいればまず勝てない。
「過大評価というものだ。もっとも、貴殿は私を簡単に退けられるという自己過大評価をしている時点でお粗末だ」
「黙ってればよぉ、言ってくれんじゃん、ぎゃはは」
「ならば、証明してみせよ」
(掛かった)
エスメリアは内心で喝采した。
ゾル・カーンが真正面から突進してくる。対するは戦隊の編隊二つ。強く当たりにくると思っているはず。しかし、踏み込みは甘く、ボンボは襲いくるブレードを左右に弾き飛ばして抜けてきた。
「とんだ腰抜けどもじゃないか、ぎゃはは」
(勝利を確信したな?)
残るはエスメリアのルイーゾンだけ。
普段は守られている指揮官機と見て大胆に迫ってくる。ところが、彼女は逃げ出しはしない。牽制砲撃を一射だけ入れて詰めさせるに任せた。ボンボはもらったと思ったことだろう。
「んあっ?」
「ふん」
ブレードを振り下ろしてくるところへルイーゾンを踏み込ませる。ビームランチャーのグリップエンドで敵機の手首を受け横に弾く。左手で腕を掴んで引き寄せた。そして、右膝を渾身の力で打ち抜く。
「ごはぁ!」
「いい感じに入ったな」
隊機が甘めに寄せたのは、敵を不用意に詰めさせる罠である。抜けたと思って間合いに入ってくればエスメリアの絡め攻撃の餌食である。
そこからが本番だ。綺麗に崩された敵機を二つの編隊が仕留めに掛かる。殺到して墜としにいくのだ。これが最近、第三戦隊が得意中の得意にしている作戦なのである。
「んん?」
「くっそがー!」
驚くべきは、ボンボがなんと八機の連続攻撃を躱しきったこと。衝撃で視界も危ういはずなのに、攻撃を躱し弾きしてどうにかくぐり抜けている。
「できるな」
「こんなとこで墜とされてたまっかよ、ぎゃはは!」
無論、それ以外のバリエーションがないとは言わない。今度は隊機が退く敵機に追いさがる。反撃を喰らわないように微妙な間合いでチクチクと攻めた。
そこへエスメリアが飛び込み、隙を見て組み付く。あとは同じ要領だ。彼女は左手を空けるためにビームランチャーのみなので致命的は一撃は与えられない。ただし、掴んだ相手は確実に崩しにいく。
「ぎゃはっ?」
「残念だがもう遅い。貴殿は私の手の中だ」
後ろから左手を取って背中側にひねる。右腕も掛けて強引にターンするとショルダーユニット接続部で異音がしてパージロックが外れかかる。そのまま引き下ろして、根本から左腕を引き抜いた。
「てめっ!」
「一本もらった。さあ、どこまで耐えられる?」
右手のブレードのみになる。それでも詰みといえる敵ではないが、攻撃力は半減している。粘るなら撃墜までもっていけよう。しかし、ボンボは強敵であるがゆえの思い切りのよさを見せる。
「付き合ってられるかよ、ぎゃはは」
「退いてくれるか。それでいい」
左肩は通常パージではないのでショルダーユニットまでダメージが入っている。すぐに換装して復帰とはいかないはずだ。悪くない結果を手に入れた。
「では、第二戦隊に加勢しよう」
「今日もお見事でしたな、戦闘隊長殿」
編隊長に持ち上げられて悪い気はしないエスメリアであった。
次回『正邪重ねて(1)』 「ディープリンクぅ」




