ひそむのは(3)
「兄様、戦闘スペースが必要でしょうか?」
「気遣いは嬉しい。が、ミア、兄を誰と思っている?」
「失礼しました。兄様はあの『ロワウスの若獅子』ですもの。無用ですね」
妹はタリオンのこれまでの演習内容も戦闘実績もしっかりと目を通しているようだ。強敵と対するに、現実としてある程度の移動スペースを欲するものだ。言えばミアンドラも都合はしてくれたと思う。
(それだけに若き日の印象もあるか)
軍学校を出たばかりの頃ならば混戦を不利と感じたろう。
(しかし、今は私は違う。混戦を嫌っているようでは二つ名など頂けないというものだ)
バラーダブラザーズのゾル・カーンは敵軍の先頭を切って進撃してくる。対する彼は戦闘隊長として第一戦隊を率いて当たる。全体を俯瞰しつつ敵と戦闘し、衝突を御するくらいできなければ、名ある戦闘隊長になど認められない。
「齧りとれ」
タリオンが力場刃で示すだけで配下の編隊は意を汲む。
噂通りであればバラーダの二人とも相手するのは厳しい。ならば、片方だけをえぐり取ればいい。その際、敵最前列の一部も含めて連れていく。
残りは第二と、エスメリア・カーデルの第三戦隊に任せる。エスメリアはボンボ・バラーダを狙う気配なので、彼はビーバ・バラーダを担当する。後続の対処は第二が担当するだろう。
「ぬ、貴様?」
「一手願おうか」
初動でタリオンの意図を読んだのだろう。それだけで噂に違わぬ敵手とわかる。ライジングサンが警戒したのも当然だ。
「度胸は買うが……、ふむ、それなりの者と信じよう」
「落胆はさせない」
「大口でないと願いたい」
ビーバは古風な言い回しを使う。
牽制砲撃抜きで迫る第一戦隊に最前列のリフレクタタイプのカラマイダは力場膜を消してビームを連ねてくるが部下たちは意に介さない。防御が硬いと知れている敵に、愚直にセオリーを踏むほどガンゴスリ部隊は形式を重んじない。
(やり尽くしているのだよ)
ガンゴスリ国軍では年に二回、地獄の演習というものが行われる。実に一ヶ月間、戦闘艦単位で毎日対戦相手を変えては演習をする。序盤は意気揚々と勝利を口にするパイロットも一週間もすれば疲労で目がギラついてくる。
(それも序盤でしかない)
日を追うごとにそれぞれが、あの手この手を駆使してくる。戦果が評価対象なのはもちろんでギャランティにも直結するのは確か。それ以上に兵士たちは名誉を求める。どうにか勝ち越しで地獄を最後まで完走する名誉に固執する。
(結果仕上がったのが彼らだ。果たして、部下たちを驚かせられるほどの戦術があるか? 無理だろう)
ビームは基本、回避する。進撃速度に影響するような直撃弾は最低限リフレクタで受ける。それもまともには受けない。芯を外して斜めにリフレクタに当て、反動を逃がす。
敵部隊はビームの弾幕に怯まず、速度も衰えず、黙々と迫ってくるアームドスキンに恐怖するだろう。怯えが無駄弾を使わせ余分な隙を生む。衝突する頃には形勢が決まっているという寸法だ。
「ちっ、臆病者どもが」
「貴官は違うか?」
「俺をこいつらと一緒にするでない」
突撃にも怯まず、数機の通り過ぎざまの斬撃もリフレクタで弾き飛ばしたビーバはタリオンの撫で斬りも躱してみせる。機体を滑らせ、死角に入ってからの一射を狙ってくるが読んでいる。最初の一撃からして牽制でしかない。
ビームは脇を抜かせる。カウンターで走らせた斬撃が、ゾル・カーンのブレードと噛みあう。オーソドックスに右手に持たせたビームランチャーで狙う。
「やるな」
「この程度で」
撃ち合いであればタリオンの一射のほうが先に直撃するはずだった。あわよくば胴体へ、最低でもビームランチャーは撃ち抜くつもりだったのに、ビーバは連射せずリフレクタで受けてくる。彼の目論見を看破していたのだ。
(なるほど、これならルオー君が対処に迷うのも頷ける)
彼のルイーゾンでも一対一で撃破に持っていくには幾つかの幸運が必要になってくると感じる。が、一流は幸運頼りの戦いなどしない。そんなものを願っていれば不運も降ってくる。
「燃えるね」
「そうか、貴様。ガンゴスリのあのパイロット。迂闊だったか」
「マークされてたとは光栄と言っておこう」
敵軍が注視しているのは傭兵のバロムのメトソールか、あるいはライジングサンメンバーというところ。これまでの会戦でタリオンはライジングサンと並走したことがない。それゆえに迂闊と言わせしめたのだと理解する。
「ボンボのやつと合流を急ぐべきかと考えていたが、ここで貴様を墜としておけば戦局にも影響しよう。本気でいかせてもらう」
「こちらの台詞だ」
死角から組み付こうとしてきたカラマイダにノールックでブレードを突き立てる。一瞬の停滞も許さないよう、即座にブレードを消して再展開する。やはり、相手はそこを狙っていた。
ストロングスタイルのビーバが右手で突いてくる一撃をブレードで滑らせる。踏み込まず、相手の胸を蹴って背後に跳ねた。そこにも敵がいる。右肘を立てて頭部を一撃。泳いだカラマイダの中心にビームを送り込む。
「どれだけ乱戦慣れしてるか」
「貴官も味方を使うのが上手いな」
爆散する機体からルイーゾンを逃がしつつタリオンは周囲に視線を巡らせた。
次回『ひそむのは(4)』 「味方は行っちまったぜ、ぎゃはは」




