ひそむのは(1)
ZACOF艦隊が整列して駒を進めると、ゼオルダイゼ軌道艦隊側も合わせて前進してくる。構えていた防衛ラインは最低限の距離。それ以上、本星に近づけたくはないのだから迎撃はその手前となる。
「発進、どうぞ!」
「ポジショニング送ります。ナビスフィアを」
艦橋のミアンドラの前には多くの通信士ブースがあり、それぞれに指示出しをしている。
ガンゴスリ艦隊全十二隻から吐き出されたアームドスキンの数は実に三百五十機を超える。その全てが重力波フィンを光らせて加速する様子は、さながら神話の天使の進軍を思わせる。
部隊の後ろに続く中継子機の数だけでも二十四基に及ぶ。担当する機体の相対位置情報を常に取得し、自動で後方をキープする無人機だ。全方位にレーザー発振をして、ターナ霧の通信妨害の中でも指揮系統の維持に務める。
「あまり積極的ではありません。見えてます?」
「ちゃんと反映されてる」
そんな通信系統から外れているアームドスキンもいる。ライジングサンの三機だ。特殊な電子戦能力を持つ彼らは中継子機無しでも常に所属戦闘艇との通信を確保している。
ルオーのクアン・ザの精密カメラで分析されたデータがライジングサンへ。そこから超光速通信で彼女のゲムデクスに転送され、指揮官ブースの戦況パネルにも情報反映されているのだ。
「受け止める気?」
軌道艦隊から発進した敵部隊はひと塊になって待ち受けているように感じられる。
「戸惑ってるのかもしれませんね。傭兵部隊がいつものように突撃してこないので」
「くどいくらいくり返してた戦法じゃないから不気味に思ってる?」
「おそらくは」
彼我の距離はまだあるが変化の兆しはない。
「不気味に思ってるの、わたしもなの。まさか、後ろから撃ってこないよね?」
「この前話したように、彼らは信用の失墜を怖れます。連合艦隊内でももちろん、傭兵協会という組織が立ち行かなくなる可能性もありますので」
「命が懸かってるだけ、一番大事にするものだもんね」
「そうですね……」
気になる沈黙が添えられている。青年には懸念もあるのだろう。オフラインブリーフィングでの、いつにない大胆な発言や行動が物語っている。それを告げてこないということは、当面の危険はないと思っているからか。
(傭兵が余計に不気味に感じるのは、きっと環境の所為。演習を自前で賄ってしまう国って少なめって話だし)
まだ少ない人生経験でまったく触れてこなかった機関である。
国軍だけで演習を済ませるガンゴスリのような国はマイノリティなのだそうだ。どこも近隣の友好国の国軍を迎えて互いに高め合うよう演習をする。周辺国家への示威行動の意味もある。
それだけではマンネリ化してくることもあるので演習相手に傭兵協会を招待したりもする。こちらは自軍兵士の能力向上に寄与するから。様々な場面で傭兵を利用しているものだとルオーから聞いた。
「でも、ちょっと気持ち悪いもの……」
ついこぼしてしまう。
「聞こえないようにね」
「すみません、ヘレン副司令」
「私だって思うのよ。口に出さないよう頑張ってるだけ」
少女は反省した。
怖ろしいのだ、艦隊後方から飛来して間を縫っていくアームドスキンの集団が。機種もまちまちで統一感はない。きちんとした編隊行動ができているようにも見えない。気まますぎる。
中には機体をローリングさせてアピールじみたものをするパイロットまで。それぞれがそんな勝手をするものだから、ところどころで軽く接触していたりもする。宇宙なので衝突音がするわけではないが、火花を散らしたうえで指を突き付けあって互いに非難のジェスチャーをする様子にはうんざりする。
「あれで通用するって……」
「言わないの。オフィシャルなアウトロー集団だと思ってなさい」
「パトリックって全然紳士なんだ」
傭兵が見下す民間軍事会社のライジングサン。しかし、ミアンドラが接しているかぎりでは遥かに整然とした行動ができている。ルオーたちが特殊といえばそうなのだろう。
「そうだよん。オレちゃんってば、とっても紳士」
茶々を入れてこなければ。
「態度で示して」
「もちのろんさ。未来のレディの君に栄光の道を捧げてあげる」
「オスの匂いがするぅ」
「真空越しで!?」
クーファの真似をすると機敏にツッコミが返ってくる。ささくれ立っていた気分がかなり治まった。ライジングサンのメンバーは少女のメンタルケアまで慮ってくれる。
「ふざけてないで始めるわよ」
怜悧な声が警告する。
「はいよ、ゼフィちゃん。任せときな。って、まだ遠いし」
「ルオーが崩しに入るから、きちんと狙いどころを見極めておいたほうがいいんじゃなくて?」
「そんな嫉妬しないでさぁ」
余計なひと言だ。
「わたしが嫉妬? ふふふ、さようなら、パトリックさん」
「リアルな絶交宣言やめてちょー!」
「やっぱりリフレクタカラマイダを前に出してるみたいね、ルオー?」
「無視ぃー!」
最前列でくり広げられているコントを聞いて気分を晴らした彼女は戦況パネルを見つめる。そこにはガンゴスリ部隊の先頭に立つライジングサン。実視でもアームドスキンの層の向こうにわずかながら印象的なレモンイエローと白の機体が透ける。
(うん、理想的)
どんな戦いでも勝てる布陣な気がするミアンドラであった。
次回『ひそむのは(2)』 「無駄弾って嫌いなんですよね」




