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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
一葉落ちて天下の秋を知る

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野火の狭間に(1)

「あなたは撃てません」

 ルオーははっきりと告げる。

「撃ったらすべて台無しになるからです」

「そうか? こうも愚弄されれば激情に駆られたとしてもおかしくあるまい?」

「冷静を保てないから傭兵をやっているとでも?」

 先回りしてバロムの逃げ道を潰す。

「あなたはZACOF(ゼイコフ)内部での発言力を失うわけにはいかないんです。もし、そのトリガーを絞れば味方殺しとして誰も耳を貸さなくなる。それだけは避けたいはずです」

「俺のなにを知っている」

「知りません。でも、あなたは英雄と呼ばれる立場でなくてはならないのはわかります。そうじゃなきゃ、普通は訂正するものです」


 いくら傲岸不遜でも限度がある。それこそ、子どもでもなければお山の大将を気取っていい気分になれるものでもない。


「でも、改めようともしない。あなたには強者として信用を勝ち得なくてはならない理由がある。そんなとこです」

「なるほどな。身から出た錆、普段の行いが悪いから疑われると言うんだな」


 ようやく銃口が下がった。まるで、軽口も通用しないと非難するような失笑気味の面持ちでバロムは引き下がる。

 ミアンドラなど口に手を当てて顔を青ざめさせていたので申し訳ない気分である。宥めてくれていたへレニアに感謝の視線を送った。


(乗ってきたね。図星だったか。やっと化けの皮が剥がれてきたなぁ)


 ルオーは内心でほくそ笑んだ。


   ◇      ◇      ◇


 空気の悪いままオフラインブリーフィングは散会となった。デヴォーが集まった意見を集約して布陣と配置を提案すると述べて解散を宣言する。


「生きた心地しなかった。あそこまで意見が対立することもあるんですね」

「珍しい部類ね」

 ミアンドラの疑問にへレニアは首を振る。


 指揮官ブースに戻った彼女はすぐにオンラインで話し掛けてきた先輩指揮官にもらす。あまりの紛糾ぶりに意見を挟む暇もなかったのを反省した。


「ほんとはルオーに言わせないで、立場あるわたしが諌めないといけなかったと思うけど」

「あなたにはまだ難しかったわ。彼が言わなければ私が意見していたところ。一歩出遅れてしまったから、バロム・ラクファカルに噛みつく隙を与えてしまったわね。ごめんなさい」

「ヘレンおばさまが謝るようなことじゃないです。ただ、びっくりして」


 ガンゴスリの軍事コンサルタントという立場のライジングサン。ミアンドラの故国はもちろん、モンテゾルネやメーザードは世話になって信用しているし、マロ・バロッタの司令官は知己である。暗黙のうちに尊重できる信頼関係がある。

 しかし、傭兵(ソルジャーズ)とその監督をしているウクエリやデトロ・ゴースとは関係性がない。もしかしたら、今ごろ出過ぎた真似をしたとルオーを非難しているかもしれなかった。


「安心なさい。たぶん、あれには意味があるわ。付き合いの長いミアのほうがわかるんじゃない?」

「そう……かも」

 確かに思うところがある。

「彼は普段、違う意見を持つ相手だからって挑発するようなことは言わないはずよ」

「諭してくるかな」

「なのに、明確に批判するような口振りだった。経験上、あのタイプの人がいつもと違うときって、なにか嗅ぎ取ってるんじゃないかと思うわ」


 これまでも傭兵(ソルジャーズ)部隊の行動には苦い表情をしていることはあった。それでも、特に問題視せず流していたと思う。バロムのそれがルオーにとってレッドラインを越える発言だったとしても、あからさまに過激な言葉で非難したのは違和感がある。


(カマ掛けだったとしたら、バロムの向こうになにが見えてるの、ルオー?)


 ミアンドラは経緯を思い起こしつつ思案を巡らせた。


   ◇      ◇      ◇


「あのな、お前、際どすぎじゃね?」

「そうです?」


 船のカフェテリアに戻るなりパトリックがルオーを責めてくる。相方はブリーフィングルームに満ちたような空気を好まない。


「君は悪意にも慣れっこだと思ってましたけど?」

 家庭環境を思えばの話。

「切り捨てたんだよ。だから、わざわざ掻き乱したくないっつーの」

「気になりません?」

「なったって、冗談はよせよで済む話じゃん。クゥだってビビってたんじゃね?」

 猫耳娘のほうを見る。

「別にぃ。ルオは面白がってたぁ」

「面白がる? お前ら、普段からディープリンクしてるの?」

「なんとなく流れで。クゥは拘束系です?」


 σ(シグマ)・ルーンを新調してからクーファは、距離が近くて接続環境が良ければ彼とディープリンク状態を保っている。ルオーは特に見られて困ることもないので放置していた。彼女もなんでも口にしない分別がある。


「どこでも一緒ぉ!」

 楽しそうに言う。

「気が知れないぜ。怖くね?」

「君みたいに、ゼフィさんにもれたら困る心の声で溢れてたりしてません」

「確かに困るな。ずっと黒髪の匂いを嗅いでたいとか、三秒に一回はキスしたいとか、白い肌に舌を這わせたらどんな反応をするだろうとか、腰を抱く手をどれくらい下げても許してくれるだろうとかな」

「ダダ漏れかしら」

 軽蔑の視線を浴びている。

「余計なこと言わせるな」

「自分から言ったんじゃないです?」

「だから、そうじゃなくて」


 珍しく食い下がってくるパトリックに、ルオーは説明しなくてはいけないかと腹を括った。

次回『野火の狭間に(2)』 「君の横槍のほうが強力だったって思考には至らないのかしら?」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 普通に腹黒い(?)ルオーくん。
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