くすぶりし(5)
無論、ゼオルダイゼ軍の増援の話は推測でしかない。ただし、あるとすれば百や二百では利かない数なのも間違いない。その程度では焼け石に水でしかない。
「あなた、もしかしてメーザード部隊が殲滅されそうになるまでに機動部隊を落とせればいいと思ってる?」
デヴォーが気色ばむ。
「そうは言ってない。全てとは言わないから、増援の一部でも引き受けてくれてるうちに勝負を決してしまえばいいと思っている」
「同じ意味よ。ただでは済まないに決まってるわ」
「このままモンテゾルネのオマケみたいな扱いでは彼らも帰るに帰れないだろう? なんの戦果もなく終われば、元同盟の烙印を押された状態で戦後の発言力も小さいまま。ならば、檜舞台を用意してやるべきなんじゃないか? 誇りを持って勝利に貢献したと言えるような」
バロムはもっともらしいことを言う。
「だからって兵を無為に犠牲にしていい理由にならないでしょ? その戦術は死兵っていうの」
「死しても誇りが守られるなら上等だろう。国軍兵士とはそういうものだと理解している」
「誰を守るために命を懸けるの? あなたの背中? そんなの死んでも死にきれないんじゃないかしら?」
さすがに雲行きが怪しい。ルオーも黙っていられなくなってきた。
「戦わせるのは理念でも、失われるのは心でなく命なんですよ。それがわかってない」
諭すように言った。
「僕だってこんな商売をしてます。人ひとりの命は銀河より重いなんて申しません。でも、あなたの語る命はあまりに軽い。まるで、子どもが遊んでいるボードゲームの駒のようです」
「てめぇ、英雄バロムの戦略が子ども並みだっていうのか?」
「僕個人の感想では大差ないです」
バッチナがバロム越しに睨みつけてくる。
「メーザードの人々は本当に苦しんできました。それでも国際社会の見る目は、威圧する側の同盟の一員というものなのも否めません。なので、汚名を返上したいという思いも強いと思います。だからって、利用していいわけではありません」
「挽回の機会を与えてやるべきじゃないか?」
「で、活躍したあなたの名も揚がるのです? あなたは人の気持ちを踏み台にして上に行こうとしています。じゃなくて、背負って戦うのは気持ちの良いものですよ?」
勇名とは人の犠牲の上についてくるものではない。如何に誰かの期待に応えられたかの結果なのだ。
(射殺さんばかりだねぇ)
バロムの冷たい視線が隣のルオーに刺さってくる。ミアンドラやメンバーの誰かをその椅子に座らせたくないと選んだ場所を後悔していた。
「んじゃ、しっかり名を揚げてもらおうじゃねえか」
ラウネストが口を挟んでくる。
「両翼の片方は俺んとことメーザードでやる。傭兵はお得意の突撃戦法で増援を叩いてくれ。もし、それで軌道艦隊を沈められたならお前らの戦果だって公式に発言してやってもいい」
「恩着せがましいこと言ってんじゃないわよ」
「なんか不満か? ZACOFを構成する艦隊の司令官の発言だぞ? 傭兵協会での評価は上がるに決まってる」
理に適っているのでコレットも強く反論できない。
「約束できるか?」
「おう、確約していい。包囲陣を完成できればよし。仮に増援が来て、阻止できれば勝因は傭兵の働きによるものだって言ってやる。紛れもねえ事実だからな」
「ならば、中央の後詰め、我らでやらせてもらおう」
危険な最後の一手を自分たちで務めるという。その時点ではルオーも考えを改めたのかと思った。しかし、次の一言がそれを裏切る。
「油断しないことだ」
バロムが口元を歪めつつ言う。
「もし、増援が五百を超えるとなると半数以下の我らでは受け止めきれないだろう。そのときは敵を討ちもらしてしまう。どこに受け流すかも我ら次第ということ」
「どういう意味?」
「せっかくの申し出を快く受け取らなかったメーザードか、もっともらしいことを言って危険な任務を押し付けてきたマロ・バロッタか、あるいは我らの献身をまったく評価してこなかったモンテゾルネか。俺の気分次第だな」
当てつけに過ぎないだろうが、脅しとも聞こえる一言だった。
「もし、本気でそんなことをするなら、僕は後ろからでもあなたを撃ちます」
「なんだと?」
「油断してはいけないのはあなたのほうですよ」
形相を変えてバロムが立ち上がる。ガンキャッチからレーザーガンを抜くとルオーの側頭部に据えてきた。
彼も立ち上がってバロムのほうに向きなおる。銃口を額に合わせるような格好だ。男が指に力を込めただけで命はない。
「ルオー! お前!」
パトリックも立ち上がってガンキャッチに手を伸ばす。
「いいんですよ、パット」
「でもよ……、こんな場所で」
「こんな場だからこそ、それぞれの姿勢というものが表れます。この戦争になにを求めているのか」
彼はバロムの突き付けた銃口の前にただ立っている。自分ではなに一つ動かないまま。上背では傭兵のほうが遥かに高い。見上げる灰色の瞳は、相手の瞳の奥にあるものを読み取ろうとしていた。
「自分のほうが抜き撃ちで勝っているとでも思ってるか?」
「いいえ、さすがにこの距離では物理的に不可能じゃないです?」
ルオーは額に冷たい感触を覚えながらバロムの碧眼を見返した。
次回『野火の狭間に(1)』 「俺のなにを知っている」




