くすぶりし(4)
「聞こえなかった? 敵本隊を攻める中央をガンゴスリ部隊でお願いしたいわ」
「それは……本気ですか、デヴォー司令?」
ミアンドラはどうにか受け答えしつつも目が泳いでいる。思ってもいなかった要請にかなり困惑している様子だった。
(ミアンドラ様の中では、モンテゾルネとメーザードの連合部隊が主力という位置づけだったんだろうからねぇ。唐突な申し出に感じてるんだ)
ルオーは慌てる少女を見つめる。
「これまでの戦力分析」
デヴォーがグラフ化したものを示す。
「難しい配置や局面で、戦力に応じた最大限の力を発揮しているのがガンゴスリ部隊。要になるには十分な実績ではなくて?」
「割り当てられた役割をこなしてきただけです」
「どれもが難易度の高かったもの。それを、確実にクリアしてきたのがあなたたちよ。異論はないと思うけど」
読み取れる結果がそれを示している。
「それ、ちょっと面白くないんだけど」
「あら、傭兵は不満?」
「一番戦果を挙げてきたのはうちらじゃない」
立ち上がって異議を唱えてきたのはコレット・クラニーである。バロム・ラクファカルの取り巻きとして威厳を示したいのだろう。
「それも一面では本当」
デヴォーは認める。
「ただし、優れているのは火力の一点よ。機動戦での立ちまわりの速さや確実さ。損耗が少なくて、離脱の可能性が低いところ。突進力では傭兵部隊に劣っても、総合力では数段上だわ。パイロット個々の練度も高い」
「そんなの、その気になれば……!」
「いや、そういう戦い方をしてきてないのは事実だ、コレット」
バロムに窘められている。
「我らが貶められているのではない。使いどころが違うと考えているだけなのだ」
「結局、無茶させられるんじゃない? うちらを消耗品みたいに扱う気じゃ?」
「最後まで聞いてからでいいだろう」
騒ぎ立てるのも恥さらしだと気づいたか。ラウネストが肩を竦めるにいたって、奮然と腰を下ろした。
「続けてもいいかしら?」
ホスト役として冷静さを保っているデヴォー。
「わたくしからの提案としては、今言ったように中央にガンゴスリ。両翼にモンテゾルネと傭兵。メーザードは随時投入に備えて中央後方配置で」
「マロ・バロッタは?」
「ラウ司令には一番難しいポジションをお願いしてもいいかしら」
流し目を送られているラウネスト。
「頼られるのは悪い気しねえが話によるぜ?」
「メーザードと同じで後方待機していてくださらない? 両翼が半包囲に持ち込めたら、上か下をまわって敵部隊の背後へ。それで包囲が完成するの」
「見せどころじゃあるが、そいつはとびきり危険じゃねえか」
マロ・バロッタ司令官は流れが読めている。簡単に聞こえるが、まったくもって簡単ではない。最も敵が危険視する動きだからだ。無理してでも阻止しようとしてくるだろう。
「だってんならライジングサンを付けてくれ。出鼻を挫いて道を作ってもらわねえとやってられん」
移動を阻まれると包囲が完成せず、作戦全体に支障が出る。
「それは直接頼むか、ミアンドラ司令にお願いしてくださる?」
「頼むよ、嬢ちゃん。今回は譲ってくれ」
「それは……。どう、ルオー?」
少女は決めかねている。
「やぶさかではありません。ですが、マロ・バロッタ部隊に加勢もしません。送り届けるだけです」
「ええ、フリーで構わないけど」
「冷たいじゃねえか。最後まで付き合えよ」
ラウネストが冗談半分といった風情で言ってくる。ルオーは御免だとばかりに大型多機能テーブルの表面をトントンと指で叩いた。
「わかって言ってらっしゃるでしょう、ラウ司令。僕たちを上手に使うつもりじゃないです?」
外連味しかない男はニヤリと口端を上げる。
「バレたか」
「そこは移動に危険を伴うだけでなく、背後から要塞戦力が駆けつけてくる配置でもあります。押し付ける気満々じゃないです?」
「いいじゃねえか。頑張れよ」
気楽に言う。
「あのですね。デヴォーさんがあなたにお願いしたのは、主にそちらに対処してほしいからです。だから難しい配置だって最初に断ったんです」
「わかってるって。でもよ、包囲戦に持ち込めれば確実じゃん? 敵を慌てさせるだけじゃ芸がねえし」
「そこまで理解していて、他人に押し付けるってどうなんです?」
ラウネストはデヴォーの意図を正確に把握していた。可能なら、まずは包囲をする。それで敵部隊はかなりのプレッシャーを受けることになる。
その頃には要塞からの増援戦力が到着する可能性の高い頃合いでもある。デヴォーは浮足立って崩れかけた軌道部隊であれば、流動的に両翼を広げて包囲を続けられると読んでいるのだ。
「ならば、適した部隊があるではないか」
バロムが口を挟んできた。
「なんのための予備戦力か。増援にはメーザードに当たってもらえばいい」
「なるほど。メーザード部隊をマロ・バロッタに随伴させて増援とぶつけるわけだな」
「遊ばせておく義理はない」
もう一人の取り巻きバッチナ・ドルマンが名案とばかりに手を打つ。
「いえ、それは……」
「無理よ。メーザードの四隻百あまりのアームドスキンで、五百規模の増援部隊をどうにかできると思って?」
「それくらいはさせてもいいのではないか?」
バロムが妙に推してくるのを怪訝に思うルオーであった。
次回『くすぶりし(5)』 「僕個人の感想では大差ないです」




