くすぶりし(3)
ブリーフィングのホストであるデヴォー・ナチカが大きめの立体宙図を表示させる。現在地と敵艦隊、ゼオルダイゼ本星までもが含まれる広く取ったもの。
「敵軌道艦隊はここまで後退しているわ。まずはこれの攻略から」
ゼオルダイゼの防衛ラインなのだろう。
「総数五十。この前の戦闘で減らしたけど、人員補充もされてるはずよ」
「間違いねえな。ロウザンガラクもどうにか極軌道に乗せちまったか」
「それも問題ね」
定点から脱落した要塞ロウザンガラクは残った推進力を駆使して本星の極軌道に乗っている。そのままであれば赤道に近い周回軌道になったはずなので、かなりの努力を要したことだろう。
今は惑星平面に対して垂直、つまり縦方向に時計回りの周回をしている。要塞が惑星平面外側へ常に対応できるよう、本星の裏側に入って死角ができないような軌道だ。でき得るかぎり最大限の措置と思われる。
「要塞に搭載しているアームドスキン戦力は遠ざけられたわ。でも、まったく無視できるものでもない。戦闘艦を足掛かりに展開するのも可能」
艦隊を利用し、パイロットの休息や損傷の応急処置をするのも可能。
「軌道艦隊はキャパオーバー気味になるが、本星防衛となりゃ背に腹は代えられんだろうな」
「だわね、ラウ司令。全部とはいかないけど、五百から七百くらいは追加投入可能だと読んでるわ」
「どっちにしろ、アームドスキンだけじゃなく軌道艦隊そのものも沈めないと要塞攻略にまで持っていけないわけだ」
機動力のある運用拠点があるうちは手出しできない。
「どういうことか。ロウザンガラクはあれで無力化できたのではないかね? そのために無理な作戦を講じたのだと思っていたが」
「いいえ、それは勘違いよ、ダミエル軍監殿。あの軌道にロウザンガラクがあるうちは本星突入など無茶でしかないわ。降下したら最後、頭を押さえられて全滅」
「では、あの苦労はなんだったのか」
不平を漏らすのはウクエリ軍監のダミエル・グラーゼである。傭兵に欠員が出て、契約料金に追加がなされたのだろう。それを本国から責められているのかもしれない。
(出し惜しみして、部分契約になんかするからじゃないか。総合契約にすれば損害が出ようが出まいが傭兵協会の持ち出しになるのにねぇ)
従軍の場合、日割りの契約料金は高くとも派遣日数契約のほうが最終的に安上がりになったりする。
ウクエリとデトロ・ゴースは体面も気にしての派兵なのが裏目に出ている。傭兵協会に足元を見られる様相を呈していた。派遣されている軍監も戦略的見識が浅い。
「まずは敵戦力の分断が目的。要塞だけでも戦闘艦五十隻規模の戦力を擁するの。同時に相手なんかできないわ」
同じ説明を何度もさせられるデヴォーはうんざりしているようだ。
「敵を削れてないわりに代償が大きかったが」
「削れてはいるわ。補充が容易なだけ。敵地戦闘のリスクはどうしようもないでしょう? それも作戦前ブリーフィングで十分に説明してあったはず」
「バロムからは聞いていない。ただ、任せろとだけ」
体裁だけの軍監だと自ら暴露している。
「だったら、せめて命大事にって要望を出しておくことね。それだと最低限の戦果も期待できないから当てにしないけど」
「それは困る」
「お家事情は事前に申し合わせておいてくださらない?」
体面と体裁の狭間で揺れているダミエルたち軍監。事実上は丸投げしているのに、成果だけは得たいと考えるから上手くいかない。
(そんな感じだからあしらわれてる。都合のいい金づるみたいにね)
相手は軍事も駆け引きもプロフェッショナルなのだ。
(体よく利用されてないことを願うばかりだけど)
デヴォーがルオーを窺ってくる。出来の悪い生徒を相手にするのが面倒になった教師のような顔だ。すかさず寝たフリをすると、憶えておきなさいよという顔つきに変化した。
「軍監殿にはあとで説明して納得していただく。進めてくれ」
「よろしくお願いするわ。まずはアウトラインから」
助け舟は傭兵リーダーから出た。
「詰めなきゃなんないこと、多いもんな」
「ええ、基本方針に大きく変化はないのだけれど」
「おう、向こうさんと違ってひと塊で動くのは難儀だ」
ラウネストは察しが良い。
ZACOFは連合国軍なので指揮系統がそれぞれにある。戦略的には統一するのがベストなのだろうが、不満や軋轢の温床になってしまうのは否めない。
ただ、指揮系統が分かれているメリットもある。方針と最終目標だけ周知してあれば、各個で流動的に動ける点だ。喩えは悪いが、切り離されても手足だけが有効に行動することもできる。
(各個に運用するようにすると、指揮系統を分断されて混乱する危険性は下げられる。デヴォーさんはその基本スタイルは一貫して作戦を立てているよねぇ)
だから、ラウネストはまずレイアウトと割当を示してくれと言ったのだ。そこから各部隊の現状を踏まえて詰めていけばいいと思っている。
「大筋は包囲戦に持ち込む方向よ。敵部隊を消耗させ、戦闘艦を失わせて機動力を奪う」
「要塞攻略に持っていくにはそいつが近道だ。大変じゃあるけどな」
「ええ、大事な前哨戦。だから、敵本隊に対峙するのはガンゴスリ部隊に担当してもらうつもりだけどよろしい?」
「え?」
ミアンドラが戸惑いの声をあげる。
いきなり攻めて来たなとルオーは思った。
次回『くすぶりし(4)』 「一番戦果を挙げてきたのはうちらじゃない」




