くすぶりし(2)
ゼオルダイゼ星系に足掛かりを構築できたZACOF艦隊。モンテゾルネのデヴォー司令の提案で、より緊密な連携を求めてオフラインでのミッションブリーフィングが行われることになる。
「毎日、かなりの密度でお話しているのに、実際に顔を合わせるの数日ぶりとか変な感じです、ヘレンおばさま」
「そうね。こうして同じ空気を吸ったほうが気持ちが伝わりやすいって思うのは、考えが古いとも言えないものだわ」
ミアンドラとへレニアをライジングサンに乗せたルオーたちは議場に設定されたモンテゾルネ旗艦クーデベルネに向かう。司令と副司令という立場でありながら、オフではまるで母と娘のような親密さを醸し出す二人である。
「あまり気を抜いたら叱られちゃうかも」
少女は小さく舌を出している。
「メリハリがあれば十分です。この状態だと、戦闘時を除いてターナ霧も使ってません。お互い、電波レーダーで丸見えの形だから奇襲攻撃もなにもありませんから」
「ええ、レーダーから消えたら仕掛けてくるとき。それも、相互に偵察艇を張り付かせているのだから誤魔化しようもない」
「ヘレン様のおっしゃるとおりです。どこで、いつ衝突するか、ほとんど探り合っての結果みたいになるでしょう」
あくまで彼の予想である。
「そんな感じよ。艦隊同士での遭遇戦なんて起こり得ない。定点要塞のロウザンガラク相手なら隠密航行からの奇襲も考えたけど、艦隊が相手だと両者動く分、掛け違いが出てくるわ。探知戦なんてすれば数の少ないこちらが不利になるだけ」
「会戦宙域が決まるまで、艦隊を分けたりしないほうがいいのですね」
「各個撃破の憂き目に合う可能性は下げたいものよ」
要塞の分離に成功したとはいえ、軌道艦隊五十隻は健在である。戦力比で5:4と劣っているのは大きく変わっていない。かつ、敵軍は本星付近にあり、兵員補充も容易であることを踏まえれば楽観視できない。
「デヴォーさんなら必ずそのあたりは心得ています。出してくる作戦素案にも不安はありません」
彼女ならばとルオーは断言できる。
「予想だと、デヴォー司令ならオーソドックスな布陣をしてくると思わない? そこからどう動かすのかが見せどころといった感じの」
「おそらくは」
「それも、それぞれの艦隊が独自色を出してくるのまで計算に入れてる点がすごい。わたしも見習わなきゃ」
ミアンドラは神妙な顔つきになる。
(それも、少しずつシフトしてきそうだけどねぇ。どうも、ガンゴスリをメインにしてパルミット勢を主軸に置きたいって空気を出してきてるし)
そんな口振りだった。
彼女の思惑は理解できる。戦後の計算をしているのだ。
戦勝は、外交被害を受けたガンゴスリがゼオルダイゼを征伐した結果であり。元からのZACOFはそれを補助した形。モンテゾルネがメインで同盟を討ち果たしたという結果にしたくない。
それはオイナッセン宙区の他の国に、モンテゾルネやZACOFの各国がゼオルダイゼ同盟に成り代わったと思わせたくないからである。そんなイメージが付くと、今度は彼らが警戒の対象になってしまう。それは避けたいのだろう。
(モンテゾルネに貸しを作る。それくらいの気構えで応じられる姿勢を取れればいいけどさ)
声には出さず告げる。
「実戦経験値を積んできて、兵もかなり練れてきたわ。どんな役割に配置要請されてもそれなりに戦えるはずよ」
「あまり難しく考えなくてもいいですね」
(国際社会はそんなに甘くないよ、ミアンドラ様。連合軍を組んで戦争をしている最中でさえ、自国の立場と利益を図りつつ進めているのが当たり前。言葉の裏にひそむ意図を読み取らないと、いつの間にか難しい立場になってるかもねぇ)
ルオーは少しずつ助言を控えるつもりになっていた。それは、この事態の裏側にあるものが徐々に実体を取りつつあるからなのも一つの要因。集中して警戒すべきはそこであって、ガンゴスリの国力を鑑みるにまだ優しい国際情勢なら少女でも乗り切れるであろうという目算での話。
「なんだか、クーデベルネの艦内って洗練されてる感じがして」
「そうだわね。比べると我が国の戦闘艦は少し無骨。伝統的にっていえばそれまでだけど」
案内されつつ中央通路を進みブリーフィングルームへ。錚々たる顔触れが揃っている。二隻分まわらなくてはならなかったライジングサンは到着が遅いほうだったようだ。
「お疲れさま。招集に従ってくださって感謝するわ」
デヴォーが笑顔で迎える。
「いえ、遅くなってしまって申し訳ありません」
「まだ、時間前よ。着席してくださいな」
デヴォーを始め、メーザードの司令官にウクエリ、デトロ・ゴースの軍監、マロ・バロッタのラウネスト司令の顔。さらに、やや態度の悪い傭兵の面々。度胸は確実に育っている。ミアンドラは彼らを前にしても臆さず前に出られるようになっていた。
「それでは今後の作戦方針を打ち合わせていきたいと思います。一応、わたくしがホストの立場で進行するけどそれで構わないかしら?」
誰も異議を唱えない。
席順は特に決まっていた様子はなく、到着順に埋まっていった様子。そのへんも、皆が同等であると匂わせるデヴォーの配慮であろう。ただし、結果的にライジングサンメンバーの横が傭兵になったのは少し面白くない。
(対面くらいがちょうどよかったんだけどなぁ)
ルオーは表情に出ないよう押し隠さねばならなかった。
次回『くすぶりし(3)』 「お家事情は事前に申し合わせておいてくださらない?」




