くすぶりし(1)
操舵室でルオーが調べ物をしているとメンバーが三々五々集まってくる。腕いっぱいにお菓子と飲み物のタンブラーを抱えてやってきたクーファを除けば、なにをしに来たのかわからない。
「どうした?」
大概一番に反応をするのはパトリックだ。
「わかります?」
「お前がのほほんとしてないときは、なんか困りごとを抱えてるときだ」
「ちょっと気になるんです」
クーファの差し出してくるタンブラーを受け取り、突き出されたクッキーを口に咥えつつパネルを拡大する。彼女はおやつ休憩の場をここに選んだらしい。
「要塞攻略戦のときの戦況モデルです」
噛み砕いたクッキーを飲み物で流し込んでから説明する。
「なんか、妙な感じしません?」
戦闘中に表示される戦況パネルより情報量は多い。イメージ化されていて全体像が誰にでも把握できる。立体的に表示されていて、回転させても確認できるものだ。
「計画どおりに見えるけどな」
本隊は陽動作戦を仕掛けている。
「強いていえば全体に攻勢が緩いか? でも、あまり押し込んだらオレたちが飛び込んだのが目立っちまうじゃん。これでよくね?」
「もちろん、陽動は周知してあるので強引な攻めの用兵はされてません。ですけど、そんなことお構いなしの部隊もいるんじゃないです?」
「そういえば、だな。傭兵の連中まで右習えか。らしくないっちゃらしくない」
彼の覚えた違和感を理解してくれる。
「足並み揃える分別があるなら、これまでもそうしてるでしょうし。確かにおかしいかしら」
「でしょう? いつもに比べて彼らの突進が浅い。その所為で軌道部隊に余裕が生まれて、ガンゴスリ部隊に側撃を掛けてます。ミアンドラ様からの損害報告で気づきました」
「それも計算のうちだったもんな」
作戦中はそんなとこまで気がまわる状態ではなかった。なので、ミアンドラが想定より損害が大きいのを報告してきたので改めて調べたのだ。それで、その事実に行き当たる。
「意外と危うい状態でした。もし、ロウザンガラクの定点脱落がもう少し遅かったらガンゴスリのアームドスキン隊は大ダメージを被っていたかもしれません」
敵が浮足立ってくれたので事態は打開されている。
「正面の敵を引き付けてくれてたからにしちゃ、いささか脆くね?」
「ええ、ミアンドラ司令だって警戒してたでしょうし、それで崩れるほど弱くはないはず」
「ミア、油断してたぁ?」
クーファの反応が一番人間的である。
「考えにくいので、これに表れてない詳細報告まで深堀りしてみました。それで、新たな事実が」
『これー』
「げ、バラーダブラザーズが出しゃばって来てたのか。やつら、そうは見えないのに意外とやるからな」
側撃を受けた箇所でビーバ・バラーダとボンボ・バラーダのゾル・カーンが確認されている。二機はゼオルダイゼのカラマイダと同等以上の性能を発揮していた。なので、以前は主力だったアームドスキン『スルクトリ』の開発中後継機なのかと思っていたが、二人以外が乗っていた記録がない。
「しばらく大人しくしてたのに、またなにかと絡んできやがる。軌道艦隊所属のはずだから、傭兵部隊に噛みついていくもんだと思ってたが」
パトリックも嫌なイメージを抱いている様子。
「粘着質で噂だけど、『一閃のビクトル』ほど有名でもないかしら。バロムがビクトルを狙いにいけば彼らはガンゴスリを狙ってくる?」
「こちらの主力と見せかけた連合部隊を袖にしてです? ピンとこないんですけど」
「変に鼻が効くのもバラーダブラザーズの特徴だわね。実はガンゴスリが主力になる実力があるのを嗅ぎ取ってるのかも」
ゼフィーリアは二人の戦闘勘だと認識している。
「だとすれば、ビクトルより厄介かもしれません。今後は留意しておかなくては」
『ゾル・カーンの認識、上げとくねー』
「クゥもあの嫌な感じ、憶えてるぅ」
現実的な早期検出と、ルオーとクーファでの感覚共有での二段構えの警戒を試みる。戦力規模で劣るゼオルダイゼと正面から対する以上、危険因子は徹底チェックしなければ足元を掬われる。
(まるでこちらの作戦を覚っていたかのように狙ってきたねぇ)
ガンゴスリは突破したライジングサンを追撃させないよう集中していた場面。
(それにしては、ネックとなる僕たちを直接襲わなかったのが不思議だけど。ゼフィさんが言うみたいに偶然なのかなぁ?)
なにか引っ掛かる。全体的に中途半端なのだ。仮に、イルメアたちの部隊とバラーダブラザーズの両方の追撃を受けていたとしたら作戦そのものが失敗していた。もし、ライジングサンに目を付けていたのだとすれば、どちらを狙うべきかは言うまでもない。
(それなのにガンゴスリ襲撃を選んだ。負荷の高い状態で襲えば大きく削れると踏んでいたかのようにね。戦術上の勝敗より、ガンゴスリ弱体化を目論んだ? 長い目で見て間違ってないにしても、眼の前の敗北を見過ごしてるみたいで不気味だねぇ)
狙いが不確かである。
(まるで、そっちが目的であるかのように感じてしまうのは考えすぎかなぁ)
ルオーは今ひとつまとまらない考えに眉根を寄せた。
次回『くすぶりし(2)』 「あまり気を抜いたら叱られちゃうかも」




