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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
捨てる神あれば拾う神あり

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恩讐の道(6)

「ロウザンガラクが落ちただと?」


 ゼオルダイゼのルビアーノ・デルウォーク大統領は愕然とする。自軍のあまりの情けなさに、いつもの怒りさえ湧いてこなかった。


「いえ、陥落したわけでは。ただ、定点維持が不可能になって、やむなく本星の周回軌道へと」

 秘書官が弁明する。

「同じことだ、馬鹿者! 要塞機能を含めて、軍事拠点はあそこにあってこそ意味がある。そんなこともわからんか」

「ですが、機能は保持しております。要員の懸命な努力で、赤道軌道ではなく極軌道へはどうにか乗せられると思われます。惑星公転面外軌道への睨みは効かせられるかと」

「で、そこから外軌道へ向けて出撃はできると言いたいのか?」

 秘書官はなんとか失点を小さくしようと試みている。

「はい、数時間もあれば」

「数時間掛けて出撃して、大破したら数時間掛けて戻って換装し、また数時間掛けて戦場復帰するのか? そんなもの、なんの役に立つか! 戦闘が終了しておるだろうが!」

「それは……」


 釈明の余地などない。拠点として機能はしても、アームドスキン運用能力は失われたに等しい。


「早急に修理しろ。本来の定点に持っていくだけの推進力を取り戻させろ」

 当然の命令だ。

「それが、ロウザンガラクに使用する端子突起(ターミナルエッジ)のブロックを生産する場所がありません」

「なんでだ?」

「定期的に生産する必要があるため、ホーコラに移管してあったのです。要塞本体と違って別の場所での生産が可能でしたので」

 本国には早急に生産する機能がないという。

「ストックがないと言うか?」

「はい、定点を維持できるほどの数は」

「うぬぅ」


 権力中枢として機能させるため、ゼオルダイゼにはあまり生産拠点を置いていない。国民に富めるものという意識づけをするために、経済大国であることをやめ消費大国に移行していたからだ。

 今さら生産現場で働けと命じても、黙って従う国民は少数派になる。一度楽を知った大衆は容易に元に戻れない。強制すれば彼の立場が危うくなる。


「せめて、戦闘艦を増やさねば話にならんではないか」

 アームドスキン運用能力を取り戻すには必要になる。

「それもホーコラにありましたので」

「造れんか。ならば、取り寄せるしかあるまい」

「国庫が逼迫してきます。同盟国はなくなりました。これまでのようにどこかに押し付けることも適いません」

 経済の中心である立場も失われた。

「なにもできんのか」

「おそらくZACOF(ゼイコフ)はそれがわかっていてロウザンガラクの推力を失わせる作戦を強行したのかと」

「またしても! またしてもか、ライジングサン! 奴らさえいなければ!」


 彼の子飼いのイルメア・ホーシー戦死の報も届いている。あとは、生真面目で使いにくいトップエース、ビクトル・サンセスカくらいしか頼りにならない。友軍の損耗を無視してでもライジングサンを討てと命じても聞き入れまい。


(他は……、あの気まぐれな連中しかおらんか。数が多くとも、ルオー・ニックルを討てる人材に困るとは。いったい、あれはなんなのだ)

 妙に星間管理局が肩入れしているのも気に掛かる。


 ビクトルを除けばバラーダブラザーズという手駒もいるが、あれはルビアーノの制御下にない(・・・・・・)。命じたところで、気が向いたら応じてくれるくらいの心持ちで接するしかないのだ。


「仕方あるまい。せめて極軌道には確実に持っていけ」

「厳命しておきます」


 ご機嫌斜めのルビアーノの前からここぞとばかりに秘書官が逃げ出した。


   ◇      ◇      ◇


 どんどんと遠ざかるロウザンガラクを目にすれば、要塞駐屯部隊は気が気ではない。徐々に腰が引けた状態になっていき、ついには撤退を始める。

 呼応するように軌道艦隊の部隊も撤退を決めると戦場を離れていった。ZACOF(ゼイコフ)の連合艦隊はロウザンガラクのあった宙域を占領する形で駐留している。


「お見事ね、ルオー」


 作戦を成功させたガンゴスリに他国艦隊から称賛が浴びせられている。鼻の高いミアンドラは自慢するでもなく、その戦果を彼のものとして扱う。


「今回は僕一人で成し得たものではありません。ティムニと、それにクゥもずいぶんと頑張ってくれたようですので」

 ルオーも自分一人のこととは思ってない。

「なにせ、どうにか接触すればいいと考えていた僕と違って、二人は現実的な対処をしてくれましたから」

「へぇ、クゥが?」

「なんとなくぅ」


 謙遜ではなく、本人的にはそのくらいの感覚なのだろう。しかし、蓋を開ければ彼女は、ディープリンクハブを務めたうえにシステム解析にも一役買う、八面六臂の大活躍だったと思う。


「そろそろ拾ってくれた恩返ししないとぉ」

 意外な台詞が飛び出す。

「そんなふうに考えてたんです?」

「だって、クゥが得意なの食べることだけだもん。役に立つことできないと、ルオはいつかクゥがいてもいなくても同じって思うかもしれなくてぇ」

「そんなことはありませんよ。君はもう、かけがえのないライジングサンメンバーで家族ではありませんか」

 やはり言わなければ伝わらないものだと思った。

「家族ぅ? お嫁さん?」

「それはまた、この依頼(オーダー)が終わってからゆっくり」

「この戦争が終わったら結婚するんだぁ!」

「だから、余計なフラグを立てたら駄目です」


 ツッコミの欠かせないクーファにルオーは苦笑いで応じた。

次はエピソード『一葉落ちて天下の秋を知る』『くすぶりし(1)』 「なんか、妙な感じしません?」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 爪を隠していたと言うか、爪に気付いてなかったと言うか? 相手にしても伏せ札過ぎましたね。
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