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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
捨てる神あれば拾う神あり

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恩讐の道(5)

 ティムニはクーファと一緒にベクトル制御システムの全域読み取りに入っていた。開発者でないとどこがどう作用するか全部を読まねばわからない。猫耳娘には困難な作業のはずなのに、なぜか独特の勘を働かせて要所を指摘してくる。


『この辺がメンテナンス領域のはずー。これが交換のときにパワーラインを切り替える順番を決めてバランス取るとこでー』

 読みながら進める。

「止めるぅ?」

『止められない仕組みになっているー。常にどこかが生きてるように調整するー。そうじゃないとロウザンガラクが定点から離れちゃうからー』

「そっかぁ」

 頼りになりそうでならない。

「途中で止められないならその先で止めるしかないかもぉ」

『正解ぃー。だから、大型端子突起(ターミナルエッジ)のメンテナンス箇所を探してるんだけどー』

「メンテナンス領域、まとまってあるとも限らなくなぃ? 推力バランスのとこにオマケでメンテナンス操作する部分があるとかぁ」


 意外な指摘をされた。もっともな話である。コンソールから集中制御すると考えるからメンテナンス領域は独立してあると思いがちだが、そうとも限らない。


『飛ばしてみるー。推力バランスのとこー』

 システムスキャンを一気に加速する。

「ぴゃー、読めなくてぇ!」

『いらないとこ、読んでも仕方ないしー。ここが主星との距離パラメータ。一年の間でも微妙に距離違うから出力調整してー。内側の第二惑星と外側の第四惑星の公転周期パラメータもあってー。最接近時に向けてちょっとずつ出力調整も必要でー』

「結構大変なんだぁ」

 そんな当たり前の知識もないのに、どうして要所が掴めるのか疑問で仕方ない。

『彗星接近時の観測しつつの調整パートもあるー。それとー』

「パワーラインと似た記述あるぅ」

『これー、連動部分! パワーカットしてパージ命令に続くところー』

 肝心要のセクションを見つけた。


 使っていればどうしても素子が老朽化する端子突起(ターミナルエッジ)。素子部品の交換だけでも更新は可能なのだが、アームドスキンも入れにくいほどの重力偏重が見られる場所。なので、端子突起(ターミナルエッジ)ブロックごとパージして入れ替える更新方法が採用されている。


『メンテナンスコード入力ぅー』

 下手に細工してシステム全体に影響してはいけないので正規のアクセスをする。

『パワーライン閉鎖ぁー。ブロックパージ実行ぉー。これもこれもこれもー』

「みんな、やっちゃうのぉ」

『あ、全部パージするとゼオルダイゼ本星に落ちちゃうから計算しないとー』

「なんだぁ」

 クーファが残念そうに言う。

『派手にやればいいもんじゃなくてー』

「ティム、真似っこぉ」

『あははー』


 冗談を言っている間にも次々とパージ操作をする。並行して、要塞本体が最低限の質量操作をできるだけ残るよう計算する。本星に落ちず、かといって定点維持や軌道回復といった大きな推力を必要とする操作ができない程度にしなくてはならない。


『そろそろかなー』

 目に見えて結果が現れる頃合い。

「加速? 違いますか。この場合は減速が確認できます。上手くいきました?」

『システム破壊はリカバリされるから、端子突起(ターミナルエッジ)を捨てさせることにしたー』

「それはまた随分派手な。でも、有効ですね。このクラスの質量を飛ばせる推進力のある端子突起(ターミナルエッジ)となると簡単には段取りできませんでしょうし」

 ルオーも感心している。

『放っといても本星に落ちると思うけど壊しとくー?』

「わかりました。程よいところでスクイーズブレイザーで薙ぎ払っておきましょう」

「一個くらい、お土産に持って帰るぅ?」

 クーファがもったいない病を発症した。

「いえ、専用機材だからなんの役にも立ちませんよ。スクラップとして売るのが関の山です」

「クゥのおやつ代くらいにはなるのぉ」

「駄目です。輸送コストのほうが高くつきます」


 ティムニはクーファの膨れた頬を突付きながら笑った。


   ◇      ◇      ◇


「首尾よく成功したか」


 パトリックはロウザンガラクの位置がズレはじめたのを確認する。ごくゆっくりとだが戦場から離れつつあった。


「一時的ではなくて、徹底した手段みたいね」

 通信ウインドウのゼフィーリアはなにが起きているのか確認していた。

「あのティムニがそんな手抜かりするわけないじゃん。こいつはもう、軌道復帰はできなくなるだろ」

「少なくとも戦闘が重ねられる期間中はね。かなり大規模な艤装作業が必要になるかしら」

「そのあたりの打算は働くんじゃね?」


 無理を押して復旧作業をしても、その間に軌道艦隊が敗退するのでは大きな意味がない。それよりは本星の軌道に乗せて周回させたほうがよほど機能する。国の中枢や敵軍がそういう判断をするだろうと思った。


「パット、一回こっちに合流してくれません? もうひと仕事したら上に抜けてライジングサンごと遠回りして戻りましょう」

 ルオーが持ち掛けてくる。

「そうするか。じゃあ、行こっか、ゼフィちゃん」

「ええ、クアン・ザの周囲はルオーが砲台を掃除してくれてるものね」

「あそこが安全地帯さ」


 真っ先に行った作業である。そうでないと、彼らとて悠長に迎撃行動などしていられなかった。


「でかぶつが動く」


 サイズがサイズなので、パラパラと部品をこぼしながら流れていっているように見える。しかし、実際には端子突起(ターミナルエッジ)ブロック一つが30mほどはある。力が剥がれ落ちていっている感じで、友軍からは「おおー」という感嘆の声が届いてきた。


(ルオーに掛かれば呆気ないもんだ)


 パトリックは事実上無力化された要塞がゼオルダイゼの残照のように思えた。

次回『恩讐の道(6)』 「またしても! またしてもか、ライジングサン!」

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更新有り難うございます。 才能と才能の掛け合わせがエグい!?
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