きざはし踏むは(5)
「傭兵の主張だと、ルオーが頭を下げてロウザンガラクまで連れていってもらえばいいってことになるけど」
ミアンドラは要約する。
「それが早道ってもんだな」
「でも、お世辞にも効率のいい手段じゃないから」
「どこがだよ」
即座に否定されて取り巻きのバッチナがドスを効かせる。
「単純に意味がないだけです。陽動っていうのは、そこに注意を引いて目を曇らせているうちに本来の目的を達する方法。要警戒の敵が共に行動してれば注意の目はそこに集中するじゃありませんか」
「ま、まあそうかもな」
「バロム氏と僕は別行動しないといけません。で、目立つ彼と目立たない僕ではどちらが陽動向きです?」
これには返す言葉もあるまい。ソルジャーズサイドは口を閉ざし、デヴォーの失笑を受けている。
「んじゃ、どうするってのさ。あんた、リフレクタカラマイダを突破できないって判断したから作戦を中止したんでしょ? 何度やっても結果変わらないし、要塞直撃はバレちゃったし」
もう一人の取り巻きコレットが逆ギレする。
「一部を除いておっしゃるとおりです。何度でも言いますが、あの壁をスナイピングで崩すのは容易ではない」
「どうにもなんないじゃない」
「崩せそうにないから迷彩を掛けました。ガンゴスリ部隊で側撃を掛けるみたいに見せたんです」
ルオー曰く、失敗を失敗と覚らせないために強引な攻撃に出たのだそうだ。敵から見ると、中央の傭兵部隊の攻撃に集中しているタイミングでまわり込もうとしたように感じるだろう。
「それゆえ、ZACOFがロウザンガラク分離作戦を目論んでいるとは思ってません。時間差攻撃を新型のリフレクタカラマイダで阻止できたと思ってます」
ルオーが即座に退かず、強襲に及んだ時点で少女も迷彩行動に気づいていた。
「敵は油断してるの。強化したアームドスキンが功を奏して敵軍の攪乱作戦を防げたと思ってる。そこが狙い目。次も必ずって言っていいくらい、ライジングサンを後ろに抱えるガンゴスリの前にリフレクタカラマイダを並べてくる。それがわかってれば?」
「利用できるという寸法ですね、ミアンドラ様」
「でも、どう利用するの?」
彼女の中にも名案はない。ルオーは先鋭化させると言ったが、それは作戦を示しているのだろう。しかし、新型を抜こうと思えば白兵戦に持ち込むしかないと思える。
(ルオーはひと目であの機体の特性を見抜いてた。だからこそ、自ら接近戦を仕掛けていったんだもん)
青年がビームランチャーを使った接近戦も得意としていることを知っている。
(なのに、特別編成部隊を必要としない? 今だったら、メリア戦隊とか白兵戦で絶大な強さを誇ってるから充てられるのに)
「まずは、例の部隊に壁を作ってもらいます」
矛盾したことを言う。
「ライジングサンだけじゃ抜けないのはあなたが言ったのよ」
「ええ、僕たちでは抜けません。かなりのリスクを伴います。だから、ライジングサンで抜きます」
「余計に矛盾するようなこと言わないで」
額を押さえるミアンドラに、ルオーはとある秘策を説いてきた。
◇ ◇ ◇
一度は大きく退いたZACOF連合艦隊だったが、たった二日で再び姿を現す。イルメアは性懲りもないと感じた。
「なにやっても無駄なのにね」
出撃準備を整えつつ整備士に話し掛ける。
「リフレクタアタッチメントは二日前よりすいぶん増えてる。接続手順もマニュアル化できた。ミスることもない。連中、もっと強い敵とぶつかることになるとわかんないのかね」
「予想くらいはしてると思います。でも、もう退くに退けないじゃないですか。ここまでガチンコで敵対してきたし、同盟国も順調にリタイヤさせられた。もう、ゼオルダイゼを落とすだけって思ってるんでしょう」
「戦力差も読めないとは重症だよ。ここを落としたければ、連合国が全軍をもってきなってもんじゃないさ」
後背を脅かす同盟国がないのは事実である。ゼオルダイゼだけを相手すればいい。だが、そのゼオルダイゼが今までの比でない最大にして最強の敵であるのに気づけないものか。
「戦力差で二倍以上。しかも、本国を抱えてるから補給には困らない」
指折り数える。
「対して、長征先の艦隊。補給は定期的にできるっても十分といえるかどうか。続く戦争で生産力は落ちてきてるはず。どこまで踏ん張れるもん?」
「本拠地側が有利なのは古今東西変わりませんもんね」
「こいつらが削りに来てるうちは楽なもんさ。そのうち疲弊して小出しできなくなってくる。そしたら、前回みたいにルオー・ニックルも前に出てくるしかない」
二日前の会戦ではリフレクタアタッチメント搭載カラマイダで意表を突いて引っ張りだせた。今回はあのスナイパーも控えてくる。白兵戦をやれば五分なのは証明してみせた。
「ご苦労だったね。大変だったろう?」
彼女のカラマイダは完璧に修理されている。
「なんてことありません。イルメアさんが活躍してくれれば報われますので」
「可愛いこと言ってくれるじゃない。体よくやつらを叩いて帰ったら、今夜はいい夢見させてあげるから楽しみにしてな」
「いや、その……、光栄です」
イルメアは「じゃあね」と言ってメカニックにキスするとパイロットシートを格納した。
次回『きざはし踏むは(6)』 「そういえば、やけに仕掛けてこないじゃないさ」




