顔を上げ(5)
(ミアは自前の処理能力とか交渉力とか使って着実に成長してる。私も走らなきゃ)
エスメリアは決意する。
とはいえ、ミアンドラが遭遇したような特殊なケースでなければ、いきなり肩書きが付くわけがない。今置かれた立場でやれることは限られている。
なので、まずは安定した指揮ができるベース作りからだと考えた。操縦に全てを割いているようではいけない。盤石とまではいわないが、十二分な実力が必要。
(一朝一夕に身につくようなものでもない)
普通に考えれば練習あるのみだし、これまではそうしてきた。しかし、それでは間に合わない。幸い、今ちょうど良い教師がいる。
それゆえルオーに指導をお願いしたのだった。基本のテクニックはある程度あるはずなので、才能がありそうな部分を見つけて伸ばしたい。ルオーに頼むと快く承諾してくれた。
「エスメリア様のいい部分ですか」
実機シミュレータを起動してオンラインで繋げている。
「思いきりの良さはありますけど、リスクがありすぎて伸ばすべきとは思えません。他はすぐに思いつきませんね。ここは同じタイプの人を使いましょう」
青年はそう言って相方のパトリックを巻き込んでくれる。色男も彼女の頼みだと聞くと一も二もなく協力してくれるという。
「女性の頼みを断るほどオレちゃん、終わってないね」
「すげなくするようでは君じゃなくなります」
それで納得しているから紫髪の男も変わっている。
「とりあえず、手合わせしてみるか」
「私では到底勝負にならなくないか?」
「勝てなきゃ不合格ってんじゃない。ポイントを見つける」
挑んでみるが三十秒ともたない。彼女の斬り込みは簡単に読まれてパトリックのベルトルデに叩き落され、泳いだ機体は即座に一撃を喰らって撃墜判定される。
「気にしたら駄目よん。何度でもおいで」
「やはり、思い切って飛び込むだけでは無駄か」
覚悟はしていた。
しかし、どれだけフェイントを挟んでも攻撃のテンポを上げても、どれも通用しない。あしらわれているだけで息が上がってくる有り様だ。
「ちょっと傷ついた」
「いやいや、頑張りなよ。必ずなんかあるからさ」
フォローしてくれるが見えてこない。変に手加減しないでくれるのがありがたくもある。親身になって考えてくれているのだ。
「切迫感が足りませんか。パット、もっと本気で攻めてください」
「オレちゃんさぁ、女の子いじめる趣味ないんだぜ」
「絶対恨んだりしないから頼む」
パトリックの攻撃は鋭さを増す。ゆったりとした構えからくり出される斬撃は見惚れるほど整っていて、とてつもない威力を秘めていると見て取れる。それだけでなく、振り抜かれたかと思ったら変化して次の斬撃に繋がっている。彼女が反撃を挟む暇もない。
(これじゃなにもできない)
撃墜判定をもらうまで時間が短縮されただけだ。エスメリアはもう何度死んだのかわからなくなってくる。
(せめて、もう少しは足掻けないと二人に顔向けできない)
反撃を考えずにベルトルデの動きを見極めようとする。だが、自分の長所を見出そうというのにそれでは本末転倒だと思えてきた。
「すまん、これでは……」
「いえ、続けてください」
防戦一方になっている。
「だが……」
「エスメリア様はそっち向きでしたか。なるほどそういわれれば、地の利を読み取った受け身の戦術が多かったですね」
「なにがだ?」
「撃墜までの時間、かなり伸びてるの気づいてません?」
パトリックの攻撃を躱して反撃しようとしても無駄だった。なので、受け止めてから次につなげようと試みた。しかし、ブレードスキルでは敵うわけもない。
あきらめて膝を飛ばす。邪道なのはわかっているが、ただ足掻くことのみに集中する。衝撃で挙動が遅れるのを嫌ったベルトルデが避けようとした分、わずかな隙間ができる。
(もしかして、これか?)
がむしゃらに絡め取ろうとしただけのカウンターに活路を見出す。
突き放そうとパトリックが放ってきた突きをブレードで滑らせながら逸らす。引かれる前にと、右手のビームランチャーのグリップで肘の内側を叩いた。ついでに左膝を突き上げて次の挙動を起こさせないようにする。
「うげ」
「入ったか?」
跳ね上がるベルトルデの上半身。すかさず突きを入れようとしたが、さすがに色男に下から弾かれた。それでも、一度は崩しが効いた思う。
「それですね」
「今のでいいのか?」
「エスメリア様の長所は受け身に入ってからの絡め技です。パットでさえ絡め取られるくらいですから十分使えますよ。少々不格好なので嫌だとおっしゃるなら他を探しますけど」
「いや、それでいい」
その後も体力が尽きるまで挑みつづけた。粘っこく絡みに行くとパトリックも音を上げるくらいになる。活路が見えた気がした。
「女の子に絡まれるのは悪い気しないんだけどさ」
「アームドスキンでいいのであれば、幾らでも絡むぞ」
「それ、ちょっと違うんじゃね?」
(私はまず単機で戦えるくらい強くならねばならないのだ。生き延びるのに精一杯では指揮まで頭がまわらない。そんな指揮官など役立たずではないか)
パイロットシートに突っ伏し、フィットスキンが自動調整で増やしてくれた酸素を吸いながら、エスメリアはもう一度顔を上げた。
次回『歩む者こそ(1)』 「このまま首都圏まで行ったら戦争になるのかい?」




