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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
徒花に実はならぬ

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顔を上げ(4)

「ということがあってな」

 エスメリアはミアンドラに昼間の出来事を教える。

「へぇ。コッパ・バーデのクロスファイトは近隣宙区でも中継流れてるから子どもには人気かも」

「知ってたのか?」

「二人が出てたのは。スポーツっぽい競技でルオーが負けるわけないって思ったから一試合くらいしか観てない」

 彼女は初耳だった。

「教えてくれればよかったのに」

「観兵試合の一ヶ月ちょっと前くらいの話だもん。連絡取りづらいじゃない。それに知ってても似たような感想だったと思う」

「最後だから気合入ってたな。確かに」

 有終の美を飾って国軍入隊といきたかったのだ。


 ミアンドラもライジングサンに網を張ってたから入ってきた情報だという。作戦立案の参考になるかと思って一試合ほど観たが、内容的にあまりにスポーツ寄りだったので結果しか追っていなかったらしい。


「本当に色んな仕事を請け負ってるな」

 果たして軍事といえるかどうか。

「オープンになってる仕事は情報収集してた。でも、彼らの場合ね、非公表(クローズド)の星間管理局絡みの仕事もかなりのパーセントあるの。そっちは把握できなくて」

「そうまでして依頼(オーダー)挟めるタイミング狙ってたのか。私はそこまで熱心じゃなかったな」

「偶然に頼ったほうが捕まえられるんだもん。変な話」

 二人で笑い合う。

「でもね、ライジングサンが信用を勝ち得てるから今回みたいな作戦も可能なの。そうじゃなきゃ、とうに警告入ってると思う」

「GPFか。確かにな」

「監視だけに留めてくれてるでしょ?」


 降下作戦以降、星間(G)平和維(P)持軍(F)の戦闘艦二隻が継続的に追尾してきている。多少距離は置いているが、民間に手出しするようなら即座に阻止してくるはずだ。警告さえないのは信用あるライジングサンが随伴しているお陰だとミアンドラは推察している。


「あまり引っ張るのも悪いか」

「そうね。補給船は随時接舷してるみたいだけど」

 GPF駐留艦隊は民間補給も使う。

「お裾分けするか?」

「連合軍からの接触は避けると思う。ルオーにお願いしてみる? それだったら受け取るかも」

「悪くないな。悪意がない証明にもなる」

「ヘレンおばさまと相談してみる」


 エスメリアは司令官兼友人におやすみを言って自室に引き上げた。


   ◇      ◇      ◇


 戦闘艇ライジングサンは許可を取ってGPF戦闘艦に近づく。購入した食料コンテナをアームドスキンで持ち込むと歓迎された。


「悪いな。邪魔なだけだろうに」

 乗員は笑って応じる。

「ほんのお心付けです。どうか、よしなに」

「まるで賄賂みたいな言い方するな。人聞き悪いだろうが」

「星間法に従順かつ善良な市民からの応援ですよ」


 ルオーが軽口を叩くと機体格納庫(ハンガー)は爆笑の渦だ。軍隊のどこが善良な市民だという話。


「まあ、あまり長居しても外聞が悪いでしょうからすぐ離れますね」

 気遣いせざるを得ない。

「待て、ルオー・ニックル。顔見せたら連絡してくれって言われてる。すぐ繋がるから」

「どなたです?」

「クガ・パシミール師団長補殿だ」

 意外な名前が出てきた。

「クガ司令です? なんでしょう。今は契約中なんで請けられないって何度も言ってるんですけど」

「知らん。まわすぞ」

「やっと捕まったか、ルオー」


 通信パネルには年に何度かはまみえる顔がある。難しい感じではないので緊急の呼び出しではなさそうだ。


「なにしてる」

 手にした真っ赤に熟れた野菜を見せる。

「陣中見舞いですけど」

「陣中にしてるのはどいつだ? また、変わったことをしてるな」

「変です? 至って建設的だと思いますけど。戦争なんて不毛です」

 壮年の男は頭を抱える。

「君が言う分にはわからんこともない。だが、国軍司令官にとっては極めて異例なことをさせてるな。どうせ、君の仕掛けだろう?」

「ええ、とっても前向きな方ですから助かります」

「ふむ、ミアンドラ・ロワウスか。憶えておくべきだな。愛弟子というところか」


 クガの管轄はオイナッセン宙区であって、ガンゴスリの属するパルミット宙区は無関係だ。そうとわかっていてミアンドラのことを気にするのは意外だった。


「閣下がお気になさる方ではありませんよ。いずれ政治の道に進まれるでしょう」

 牽制する。

「果たしてそうか? なにも知らんと思うな」

「誤魔化せませんか。さすがの慧眼です。ガンゴスリはこれから、一円の宙区で無視できない存在になっていくはずです。閣下にもかなりの確率で関係してくることでしょう」

「不吉なことを言うな。君の予言は当たりそうで敵わん」

 GPF司令は苦笑いになる。

「まあ、現場にお出になられないようになる頃の話だと思いますけどね」

「上にさせたがるか。ならば、余計に頭が痛いだろうが」

「僕はそれまでに引退して悠々自適な暮らしをしているのが夢なんですけど」


 クガはさらに苦い顔になっている。鋭い眼光で貫かれた。


「誰が逃がすか。覚悟していろ」

「そうなんですよね。簡単には逃がしてくれないようです。縁というのはもたらしてくれるものも多いんですが、縛られる感覚も否めません」

 実感している。

「それだけのことをしたということだ」

「今回の作戦もいい事例になることを願ってます」

「ほどほどにな。どこの国の為政者もライジングサンに頭を悩ませている」

「そうです? 至って小市民のつもりなんですけど」

 クガは「どの口で言う」と返してくる。


 ルオーは不本意だと片眉を上げて見せた。

次回『顔を上げ(5)』 「エスメリア様のいい部分ですか」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 ⋯⋯あぁ、そう言えば軍属じゃあ無いから市民ですね?
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