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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
徒花に実はならぬ

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顔を上げ(3)

 農業プラントは機能がほぼ標準化されている。クリアメタルルーフを採用した採光式と閉鎖式の差があるくらいで、雨の日でも変わらず育成ランプで照らすので常に成長を促せるのに大差ない。水やりや温度管理、肥料まで自動化で管理する。

 そこのプラント群では農業プラントは全て採光式で、密閉式のものは合成肉プラントなのだそうだ。酪農プラントや嗜好品のフラワープラントなどはやっていないらしい。


「すごい出荷量だな」

「促成栽培技術を使ってるからよ。都会の需要を満たすにはこれくらいの生産効率でないと」

「立派なものだ」

 エスメリアは感心しきりだ。


 利益は相当のものだが、なにより高価なプラント設備をローンで購入しているので莫大に儲かるわけではないという。それでも、気の置けない仲間同士で気ままに働く分には程よい儲けになる。


「こうやって毎日消耗品や俺たちの生活用品を積んだ無人パレットが首都圏から飛んでくる。代わりに生産品の入ったコンテナを積んで出荷してるって感じだ」

「コンテナ詰めから積載まで自動でやってるんじゃ、あまり人手はいらないのか」

「まーな。生産管理っていうより品質管理だぜ。生産量キープできても出来が悪いと契約切られちまう」


 彼らの上に流通業者がいて、そこを満足させつづけなくては事業が成り立たなくなる。経験がものを言う部分なので、試行錯誤しながら運営しているそうだ。


「ノウハウが溜まったら企業としても成長していけるだろ。事業規模もここの街も大きくなってく。子どもに引き継げるようになればいいなって思ってる」

「大したものだ。今は集落に毛が生えた程度でも、いずれは地方都市にまで発展させたいって夢があるんだな」

「政府は安全保障だなんだと躍起になってるけど、俺たちにしてみりゃ勘弁してほしいってもんだ。戦争なんて御免だぜ。都会の連中食わすのに汗水垂らしてるのをわかってくれない」


 ウェンディロフ政府は国益に適う戦争だと広報しているのだろう。国軍の出征となれば需要も高まるという意味で彼らにも影響がなくもない。しかし、当人たちにしてみれば収入が安定するほうがよほど助かるとみえる。


「お偉いさんには楽しいゲームなのかもしれないが、俺たちの眼中にもない出来事なんだよ」

「だろうな。そう思ってないと敵艦隊になど声を掛けまい」

「おう、単なる客にしか見えない」

 ラグスンは大笑している。


(皆それぞれやるべきことをしている。私も負けてはいられないな)

 エスメリアは尊敬の眼差しで管理者たちを見た。


「ほんとー?」

「絶対だって。訊いてみようぜ」

 子どもたちが駆け抜けていく。

「おいおい、バタバタしてるからフラフラすんじゃないぞ」

「それどころじゃないんだって。すごい人来てるんだから」

「なんだって?」


 トラックの荷台に同乗してプラント群の外れに向かう。そこでは余剰分を戦闘艦に積み込む作業が行われていた。通常の流通ではないので手作業である。といっても、作業しているのはアームドスキンだが。


「見て見て、あの色。深緑とめっちゃ黄色。あれってあれじゃん」

 クアン・ザとベルトルデが作業している。

「ルオーとパトリックがどうした?」

「やっぱりルオー選手とパトリック選手なんだ。すごくない?」

「握手してもらおうぜー」

 アームドスキンの足元まで行ってしまう。

「ヤベ。邪魔すんなって言ってんのに」

「選手?」

「いや、俺にもなんのことだか」


 ラグスンも首をかしげているが、放っておくわけにもいかず止めに行く。子どもたちは遠慮なくコンテナ作業の近くまで行っていた。


「ルオー選手ぅー!」

 クアン・ザが手を止めて降りてくる。

「なんです?」

「エシュメールのルオー選手でしょー? 握手してー!」

「あれは一時のことですけどね」


 ルオーは機体を降着姿勢にすると降りてくる。ヘルメットを脱いで顔をさらすとワッと湧いた。子どもが集まっていく。


「だから、邪魔すんなって言ってんのに」

 ラグスンも駆けつける。

「知らないの? すっげえ有名人なのに」

「ラグスン、遅れてるー」

「なんだってんだよ」

 馬鹿にされて怒ったポーズ。

「コッパ・バーデでやってたクロスファイトで優勝した、めちゃくちゃ強い人なんだから」

「そうなのか?」

「前の依頼でそんなこともしてて。民間軍事会社(PMSC)なんて何でも屋みたいなもんです」

 ラグスンは目を丸くしていた。

「俺もクロスファイトくらいは知ってるが、そんなすごい選手だったとは」

「負け無しのチームに簡単に勝っちゃうくらいなんだぜ」

「確かにな。ルオーならそれくらいするだろう」

 彼女も納得する。


 子どもたちが寄ってたかって握手したりベタベタ触ったりしている。青年は微笑んでされるがままだ。


「パット、君も降りてきてください」

「子どもにモテたって仕方ないじゃん」

「ファンサービスくらいするものですよ。彼らの中には綺麗なお姉さんがいる子も混じってる気がします」

「なんだと? そいつは聞き捨てならんな。どいつだ? お兄さんにお姉さんを紹介してくれるなら幾らでも握手してやるぜ」


(こいつだけは変わらないな。ルオーが病気だと言っていたのも頷ける)

 呆れが先に立つ。


 エスメリアは現金な男を諌める役目は相方に任せて呑気に眺めていた。

次回『顔を上げ(4)』 「陣中見舞いですけど」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 意外な所で選手時代の知名度がw
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