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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
徒花に実はならぬ

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顔を上げ(2)

(前に聞いたな。確か、ルオーはミアをに政治家をさせたがってるとか)

 パトリックが口を滑らせたのをエスメリアは憶えていた。

(こうやって誰かのために頑張れる姿を見ると、さもありなんって思うな。演説も上手だし)


 ミアンドラが士官学校で成績を上げようとしていたのは、結局ロワウスの家のメンツを保ちたかったからだと聞いたことがある。元々家のため父親のためにと頑張れる性格なのだ。それが国民のために変わるだけで政治家向きになる。元来、処理能力は高い。


(ミア自身も成長したくて、こうしてどんな役回りだってこなしてみせようとしてるのか)


 そうでなくとも時間はいくらあっても足りないくらいだろうにと思う。普通ならとうにパンクしているはずだ。そこを実力派のへレニア副司令や軍事コンサルタントとしてルオーがフォローして成り立たせている。


(負けていられない。ただでさえ出遅れたのだから、私はもっと努力しないと追いつけない)

 十分に出世コースだと言われるが、同世代のミアンドラが颯爽と顔を上げて走っていっているのであれば必死に食らいつくまで。


 心に誓っていると、ルイーゾンの足元を車が追い抜いていった。覗いていた少女が合図したので脚を緩めて止まる。降着姿勢にして高さを調節した。


「余った野菜とか買ってくれるってのはあんたたちかい?」

 トラック型のリフトカーの運転台にいる男はまだ若い。

「ご存知なんです?」

「噂はな。俺たち、プラント管理者にもコミュニティがあるんだぜ。随分と気前がいいって聞いてる」

「気前がいいというよりは、本当にそれだけの仕入れが必要なんです。この艦隊で何人の乗員がいると思われます? 三千五百人くらいですよ? それだけの人員のお腹を膨らませようと思ったら意外と大変なんです」

 弱音をはくと若者は笑い出す。

「言われりゃそうか。食料も冷凍だの乾燥だのじゃ厳しいもんな。じゃあ、なんで降りてきちゃったんだ?」

「ウェンディロフの皆様に、わたしたちが言われているほど悪人じゃないって思われたかったんです」

「まあ、侵略者だって政府の連中は言ってるな。でも、そうやって根性見せられると、あんたの言い分も聞かなきゃってもんだ」


 ミアンドラは「根性?」と首をかしげる。なにを言われたのか理解が及んでない様子だ。


「だってな、俺が変な気起こしてあんたの首を政府の土産にして報奨金をせびればって思わなかったか? 丸腰で立ってるんだぞ?」

「ああ、なるほど。でも、あなたってアームドスキンの手の上に立ってるいたいけな少女を撃てるほど人が悪いのですか?」

「自分で言うか? あんま笑わせんなよ」


 現実的な話でないのは事実だ。確実に報復がある。アームドスキン相手にレーザーガンを向けるのは自殺行為でしかない。


(実際に愛国心で動いたとしてもやらせないけど)


 暗殺阻止は難しくない。エスメリアが即座にルイーゾンに彼女を握らせて守り、足で軽く小突くだけで人など簡単に処理できる。


「どれくらい欲しい?」

 若者は訊いてくる。

「あればあるだけ嬉しいです。なにせ、これから海を越えないといけません。洋上プラントもあるみたいですけど、あまり寄り道してる場合でもありませんし」

「三日待てるか? フル稼働させてがっつり渡すぜ?」

「ご迷惑にならなければ。わたしたちが滞在すると万が一にも国軍が攻めてくる可能性も捨てきれませんけど?」

 もし検知したら全速で集落を離れるつもりではある。

「そんときは政府を見限るまでよ。あんたら、守ってくれるんだろ? 聞いてるぜ」

「もちろん、民間人の方が被害を受けないよう全力を尽くします」

「そのアームドスキンが五百もいるんじゃ心強くて仕方ないってもんだ」


 助手席の男と爆笑している。気のいい二人組のようだ。


「俺はラグスン。そこの集落の面倒見をしてる。隣のダファスは腐れ縁だ」

「そりゃないだろ、親友」

「お仲がよろしいんですね」


 ミアンドラを降ろして、自分もシートを前に。警戒を解いた証拠にとヘルメットを脱いで見せる。


「うわ、こっちも別嬪さんだった。ヤバい」

「お前、そんなこと言ってたら嫁さんにどやされるぞ」

 小突き合っている。

「本当にいいのか、お前たち。ミアは見てのとおりの少女だが、私たちは本物の軍人だぞ」

「待ってくれよ、お嬢さん。そいつは目の毒だ」

「いや、最高じゃね?」


 言われて思い出す。彼女はフィットスキンしかまとっていない。コクピットにいたのだから当然だ。身体の線が丸見えの格好である。


「私をどうこうしようと思わんことだ。一般人向けに選ばれただけで、(ふね)には無骨一直線の男衆もたんまり乗ってる」

「だよなー。でも、ごちそうさま」

「いや、ほんと嫁に怒られろ」


 じゃれ合っている男たちの車に先導させて道を外れる。その先には前にも増して大規模なプラント群が並んでいた。

 聞けば、都会暮らしに嫌気の差した若者が集まってベンチャー的に各種プラント運用企業を立ち上げたらしい。なので、管理者の街には若者ばかりだという。


(それでか。妙に怖いもの知らずだと思った。一般人とは色んなことを考えるものなのだな)

 生まれた家で将来が決まっていた彼女にすれば目新しい事実である。


 エスメリアは感心していた。

次回『顔を上げ(3)』 「ルオーとパトリックがどうした?」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 ⋯⋯男の業だなw
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