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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
徒花に実はならぬ

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顔を上げ(1)

 艦隊を訪問してくれた一家に仲介を頼んで集まった生鮮野菜は結構な量になった。相場より少し色を付けた価格での取引をお願いしただけに、今後の生産調整で予定出荷分がまわせるギリギリまで出した管理者もいるようだ。


(遠征先で兵員の健康やモチベーションにダイレクトに影響する食料を確保できるのなら安いもの)

 ミアンドラの考えはそうだったし、へレニア副司令含め幹部も同様の反応だった。


 彼女が欲したのはルオーの提案したとおり、彼らが戦闘時以外では普通の人であることのアピール。それにはまず民間との接点があることが第一。農業プラント管理者との取引は食料確保と併せて一石二鳥の策だったのである。


(絶対に民間への被害を出さないような配置もこの状況への伏線だったのね)

 ルオーが機体の落着阻止の戦力配置を言い出した。


 落下した大破機は邪魔にならない場所に放置し、パイロットを捕虜にも取っていない。勝手に近くの街まで移動して戻るに任せている。へレニアがそう提案したのはおそらく、彼らの証言も連合艦隊の寛大さをアピールするためだと思われる。


(逆プロパガンダ作戦、単なる思いつきにしては徹底してる)

 ミアンドラは少し面白くなってきた。

(なにより、良い人のフリすればいいんだから気が楽。もしかして、司令官なんて大役を任されたわたしの精神的負担を軽くしてくれるつもりもあるのかな)


 眠そうな青年の策には裏のさらに裏もあることが多い。相手を観察することに長けているルオーだからこそ生み出せる施策である。乗っかるほうは、その真意を見抜かないと効率よく動けない難しさはあるが。


(修行させられてる気分)

 長所を伸ばそうとしてくれているので不満はない。


「さあ、移動しますか」

「ええ」

 当の青年が言う。

「僕的には向こうひと月くらいここで野菜食べていられると満足なんですけど、そうもまいりません」

「置いていくわけにはいかないから。まだ、契約分働いてもらわないと」

依頼主(ユーザー)が勤勉だと大変です。まあ、今回の依頼(オーダー)契約料金(フィー)はひと財産になりそうなので、完遂後まで我慢することにしますね」


 見送りに来てくれた一家を笑わせてから旅立つ。上陸艇から身を乗り出して女の子に手を振りながらさよならした。彼らの軍隊に対する印象が多少は良くなっていることを祈りながら。


「まさか、ずっとこんな感じにするつもりじゃないでしょ?」

「いいえ、そのつもり満々ですよ? このまま首都近くまで美味しいものを集めながら行きます」

「ほんとに?」

「僕は満足、ミアンドラ様の部下のお腹も満足、取引相手も満足。みんな、ウィンウィンの関係で進めます。それが一番、ウェンディロフ政府へのダメージになります」


 最後の一節だけ口元に薄笑いが浮かぶ。ルオーの本当の怖ろしさはそこにあると感じられた。どこまで敵が耐えられるか、試しているイメージさえある。


「幸い地上を進めば、首都までの途上に農業プラントはもちろん、合成肉プラントや酪農プラントもあります」

「連合軍のお財布をパンクさせるつもり」

「そこまでは。ちょっとたかるだけです」

契約料金(フィー)から引いてやるんだから」


 上陸艇をエスコートしてくれたクアン・ザから降りてきた青年と軽口を叩き合って艦橋(ブリッジ)に戻る。次の目的地まで、途上の集落の人々を驚かせないようゆったりと進む計画だ。


「戻りました、ヘレンおばさま」

 オンラインで打ち合わせ。

「楽しかった?」

「とっても」

「私も首都(ルードリー)の高級店でしか味わえないような最高のサラダをいただけたわ」

 とても戦地では味わえないようなものと例える。

「今回は偶然に頼った形だけど、今後はそうはいかないわね。工夫が必要なんだけど」

「そうですね」

「顔として一役買ってくれない?」

「はい?」


 ミアンドラはへレニアの計画に目を丸くした。


   ◇      ◇      ◇


 エスメリア・カーデルは乗機ルイーゾンを歩かせている。舗装もされていない道をただゆっくりと歩いているだけ。ただし、差し出した手の上には司令官であるミアンドラが軍服で立っている。


「我々はこの地にお住いの皆様に危害を加えるつもりは全くございません。素通りするだけのつもりです」


 少女の声は上空を行く戦闘艦のスピーカーから流している。同時に3D映像も投影していた。


「なのですが、一つだけお願いがございます」

 ミアンドラは懇願口調になる。

「無理を申し上げるつもりではありません。長きの遠征で食生活に不便しております。具体的にいうと、新鮮な食材の確保が難しいのです。ですので、余裕がある分だけご提供いただければと思っております」


 道沿いの家屋からは何事かと覗く人影も多い。最初は怖れていた住民も少女が生身をさらしていることによって警戒感が薄れていた。


「もちろん対価は通貨(トレド)でお払いいたします。価格に関してもご相談を承ります。どうか、我々の食生活の窮状をお救いいただけませんでしょうか?」


(ミアは本当に器用だな。やらされてる感がまったくない)

 そう見える。

(もしかしたら演技でもなんでもないのか? ほんとに我ら兵士の得になると思ってやってるのか?)


 エスメリアはなんとも判断がつかなかった。

次回『顔を上げ(2)』 (ただでさえ出遅れたのだから、私はもっと努力しないと追いつけない)

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 何だろう? この野良猫に対しての「怖くないよー」感はw
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