先を見据えて(5)
小さな女の子では、さぞや怖ろしかったのではないかとミアンドラは思う。空から巨大な人形が多数降ってくる様に絶望を感じても変ではない。その原因となった彼女に果たして感謝の念を抱くだろうか。
(きっと、ご両親に言われて来たのね)
そう解釈していた。
(なにされるかわからないから、とりあえず機嫌を取っておこうとしても不思議じゃない)
ここはガンゴスリではない。軍人が尊敬を集める社会環境にないのだ。主に畏怖の対象だろう。軍服までもが民間人との差を強調しているだけに感じる。
ところが、近づいてきた女の子の瞳に怖れはなかった。よく知っている尊敬の眼差しだ。屈託のない笑顔で腰に抱きついてくる。ミアンドラは思わず屈んでハグを返した。
(間違った。つまんない先入観で見てた。もっとずっとおおらかなんだ)
広い大地がそうさせるのか。
(軍服であろうが、どんな官職であろうが関係ない。まだ感情のままに生きてる年頃なんだから当然。この子の中には感謝しかないんだ)
朝のひんやりとした空気と相まって、女の子と触れ合った頬の温かさが身にしみる。普通の人同士のコミュニケーションとはこういうものだと思い出す。
「よろしければ朝食でも如何でしょうか?」
両親が申し出る。
「兵士の方全員とはいきませんが代表の方々だけでもおもてなしさせてください」
「一緒に朝ごはんしよ?」
「ええ、喜んで」
女の子に誘われて悪い気はしない。
家族のリフトカーに随伴して上陸艇を飛ばす。座席に限りがあるのでライジングサンメンバーはボディに付いているステップに足を掛けて掴まっているだけ。うらやましくなった彼女も開けたハッチから顔を覗かせる。
「すごく気持ちいい」
「でしょう? このあたりは農業プラント地帯ですから空気も綺麗です」
「うん、無垢な感じ」
あの女の子と同じだ。
周囲には戦闘艦と変わらないサイズの巨大なプラントが幾つも設置されている。導光式の農業プラントで天井部はクリアメタル製だ。陽光を取り入れる構造になっている。
中は一面緑でところどころ赤や黄色も見える。野菜が大量に育てられている様が見て取れた。全て自動化されていて、先導する家族もおおまかな管理をしているだけのはず。
「素敵な景色」
「どこにでもあります。あなたが守ってるものですよ」
「そうか。そうね」
改めて実感する。
進むと素朴な一軒家が見えてきた。この家族が質素に暮らすにはちょうどいい大きさだろう。周りには木々や花も植えられていて目に優しい。
パッと見はそうでも、地下にはどうやら大型の対消滅炉が埋設されていると思われる。家にももちろん、各プラントにもず太いエネルギーケーブルが伸びている。
「ようこそ、我が家へ」
家族で迎えてくれるとテーブルに案内された。
「上流の方には粗末に思えるでしょうが、新鮮さだけは自慢できます」
「とんでもない。いただきます」
「おあがりください」
見た目で違いがわかる。野菜のみずみずしさは軍用糧食とは比べものにならない。味や食味は改善されたとはいえ、レーションはどうしても省スペース性や栄養素が重視される。
「すごい」
「堪らんね」
彼女に続いてパトリックも感嘆の声をあげる。
シャキシャキとした歯ざわり。口の中にあふれる甘さを含んだ水気。噛むごとに鼻に抜けてくる爽やかな香気。人に不可欠な栄養素を感じ取ってか、身体がもっと寄越せと訴えてくる。
ゼフィーリアは上品ながら静かに口に運んでいる。ルオーやクーファなどは無心に貪っているので声もない。鬼気を感じるほどの表情で口に詰め込むのに集中している。
「シェフを呼ぶのぉ!」
「無加工生野菜です」
「じゃ、生産者を呼んでぇ!」
「ご家族に感謝いたしましょうね」
一皿片づけてクーファが咆哮する。ルオーも満足げに顔をとろけさせていた。そんな様子に親子は爆笑している。やはり、この二人の食への執着は半端ではない。
「みんなにも食べさせてあげたいな」
つい呟く。
「可能かもしれませんよ?」
「ほんと?」
「こういった農業プラントはかなり高めの生産ができるよう設定されているはず。需要に合わせて調整してるんです。だから、こちらのご家族なども自分用に作ってるのではなく、余剰分を消費されているのではないです?」
青年が尋ねる。
「ええ、そうですよ。大概は多めに生産していて、僕たちで食べきれなかった分は肥料として再利用してます」
「もしかして、お売りいただけたりしません?」
「難しくはないですが、そこまで大量でも」
ミアンドラが質問すると微妙な面持ちになる。国内消費分として制限されているのだろうかと思う。例えば政府からの補助などがあるので勝手に売れなかったりするのかと尋ねてみた。
「生鮮食品なんで、純粋にスペースの問題で一遍に貯蔵してないだけなんです」
説明してくれる。
「生産量を上げるときは、一時的に光量や養分調整をしてサイクルを早める方法で対応します。多少は食味が変わってしまいますが、そこはなんとなく経験でどうにかしてます」
「では、よろしければお譲りくださいませんか? 出荷できるだけの量で構いません。他のご家族にもお声掛けいただければ、それなりの量になるのではないかと」
「ああ、確かに。ちょっと待ってください」
携帯端末で話しはじめた父親にミアンドラは期待の目を向けた。
次回『顔を上げ(1)』 「ちょっとたかるだけです」




