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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
徒花に実はならぬ

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先を見据えて(2)

 そこは農業プラント管理者の集落である。三十軒ほどの家族が住んでいるだけの場所。生活用品は近くの街から搬送ドローンが運んでくるので店舗もない。管理者たちが寄り添って住んでいる、そんな小さな集落。


 昼間、近くの大きめの街の傍に敵国の艦隊が降りてきた。占領されるのかと思いきや、その艦隊は高度を取ったままなにもせず飛び去ったという。

 戦闘艦の群れは夜中近くになって集落近くまでやってくる。住民が不安げに夜空を見上げていると数多くの機動兵器が飛び立っていった。衛星軌道付近で戦闘になっていると思われる光が瞬く。


 怖れていた事態になったと住民は思う。しかし、動けば動いたで攻撃される気がして露骨に避難するのもはばかられる。結局、家に閉じ籠もったままやり過ごそうとしたが失敗した。

 そして、災難が降ってくる。攻撃はされなかったが、撃墜された国軍のアームドスキンが落ちてくる。運悪く家が押しつぶされればお別れだ。その家族も覚悟をした。


「わあ!」


 その瞬間、金色に輝く翼が閃く。五十以上はいると思われる敵軍のアームドスキンが夜空を覆うと、落ちてくる影を受け止めはじめた。


「え? なぜ?」

「かっこいい!」

 親と子どもの反応は大きく異なる。


 大人の感覚でいえば敵軍がなにをしているのかわからない。だが、子どもは単純に、守ってくれる彼らを頼もしいと感じただけ。散発的に落ちてくる機体を受け止めては空いた場所に降ろしている。

 反重力端子(グラビノッツ)のお陰で落ちてくるアームドスキンの速度は自由落下にほど遠い。しかし、家一軒押しつぶすには十分な速度。家族は敵軍が被害から守ってくれているのを間近に感じられた。


「この方たちは……」


 懸命に働いていた。一機たりとも街に落とさないよう散開して受け止めた機体を運ぶ作業をくり返している。気遣いされているのは間違いない。


「兵隊さん、ありがとう」

「明日になったらお礼を言いに行きましょうね」


 子どもが空に向けた言葉を母親は優しく引き取った。


   ◇      ◇      ◇


「絶対に人の上に落とさないように」

 ミアンドラは強く主張する。


 そのために二隻分のアームドスキンを待機させていた。軌道上の戦闘の被害を地上に及ぼさない。それが今回の戦闘における最大の課題だったのである。

 敵部隊を退けなければマロ・バロッタ艦隊との合流は果たせない。敵が退いてくれないかぎり戦闘になる。それは仕方がないこととはいえ、被害が地上に及ぶと彼らが民間人には無害な普通の人であることが証明できない。


「落下コースは計算してピックアップ隊に伝えてます。司令は指揮に集中なさってください」

「お願いします」


 衝突は予想よりも激しい。上下からの挟み撃ちになれば、より消極的になるかと思いきや粘ってくる。ウェンディロフ軍にも本国防衛の要であるプライドがあるようだ。


「エスメリア隊、間もなく敵艦隊に接近」

「攻撃に入ったら部隊を割いて防衛に振り向けてきます。素早く対応を。少数部隊です」

 編隊を導く通信士(ナビオペ)に事前通達をしておく。

「アベニールが抜けてきました。早い」

「かなり押している模様。伝達、ライジングサンがエスメリア隊の援護に向かってくれるそうです」

「本当? だったらこちらで援護は不要。退路作ったまま攻撃続行」


 ミアンドラは戦況パネルに指を滑らせて移動指示をしながら、大まかな意思決定をナビオペ経由で各編隊に伝えていく。細かな気遣いも必須だと数度にわたる戦闘で学んでいた。兵は作戦指示だけでは不安を抱えてしまう。


「しかし、首都側でいいんですか?」

 ナビオペがパイロットの懸念を代弁する。

「相手に好都合だと思いますけど」

「いいの。逃げやすいようにするのが得策」

「集まられたら厄介じゃないですか?」

「人の多い場所のほうがこっちにも好都合なの」


 敵軍に防衛しやすい形に思えるだろう。首都圏防衛に残してきた友軍とも合流できるので、連合側としては不利と感じるかもしれない。戦闘するにも厳しいと。

 ただし、まともに当たればの話。今回の作戦では敵と正面からの戦闘にはしない心づもりである。これからの策で力を削いでやるのだ。


「エスメリア隊、目標に接近」

「そのまま攻撃」


 スイッチの入っているミアンドラは冷然と命じた。


   ◇      ◇      ◇


「戦闘艦が二十、じゃなかった一つ沈んだから十九ですか。直掩も二十は残ってます。なんなら予備機出してくるかもしれません」

 編隊リーダーの一機が第三戦闘隊長のエスメリアの傍で確認してくる。

「ミアが行けって。難しいか?」

「やってみせますとも」

「頼みたい」


 上申の結果なので急造の分隊である。彼女が率いているので第三分隊とでも呼ぶべきか。本来設けられていない戦闘隊長の三つ目の椅子なので、飾りの役職のようなもの。過分にも四つもの編隊を任されて、はやる気を努めて抑え極力冷静にと戒める。


「アベニールでもできたのだ。このルイーゾンにできないとはいわせん」

「その意気です」


 マロ・バロッタ部隊は敵を圧倒してみせた。同程度の性能を持つルイーゾンを駆る彼らも直掩機を蹴散らしてみせよと発破をかける。


(ついてきてくれた彼らに戦果を)


「突撃!」


 エスメリアは覇気に満ちた声で号令した。

次回『先を見据えて(3)』 「ここまで来てからですか?」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 民間から見たらどっちが味方なんだか⋯⋯。
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