苦難にも(5)
ルオーは数十秒の間を置いて長距離砲キャノンのトリガーを二回押し込んだ。ウェンディロフの国軍は希望どおりアームドスキンの力場盾を連ねて艦隊の防衛に力を尽くす。
(こうなると、この武器の弱点は弱点じゃなくなるなぁ。対策が知れ渡っちゃってるから敵を一ヶ所にまとめるのに便利)
スクイーズブレイザーはエネルギー量のわりに収束度が強すぎて直進性が非常に高い。ゆえに、艦艇船舶に搭載されている防御フィールドであれば貫いて本体にダメージを与えることが可能。
逆にいうと、より力の強い防御手段に衝撃すれば貫いたりできず偏向してしまう。リフレクタのように根本的にエネルギーを通さない装備ならばの話。なので敵アームドスキンはリフレクタを連ねて阻止しようとする。
(逆利用もできてしまうんだけど)
収束度が強すぎるために有効な防御法なのである。もし、収束度を加減して発射すればどうなるか。リフレクタへの衝撃で通常のビームのように表面で拡散する。
(なにが起こるかは自明の理だねぇ。とりあえず手札に置いておこう)
今使ってしまう理由がない。
スクイーズブレイザーキャノンを背中に格納したクアン・ザに今度はスナイプフランカーを持たせる。直撃のショックでパイロットが気絶したらしい機体を丁寧に狙撃。敵部隊は僚機の救助に集まってくる。
「準備ご苦労。もう休んでていいぞ」
「そうはいきませんが、少しクールダウンさせてもらいますね」
ラウネスト司令の言葉に甘える。
とはいえ、機体更新直後のマロ・バロッタ部隊には少々重い数の敵だ。アームドスキン『アベニール』での初の実戦。立て直す隙を与えたくはないと思う。
「引っ張っていってひと当てするから後ろについてろ」
「任せなさい」
レモンイエローと白のアームドスキンが先行していく。パトリックとゼフィーリアが先導してくれれば大丈夫だろう。状況判断力にも秀でたバディに間違いはない。
「じゃあ、中継」
ライジングサン経由でガンゴスリ艦隊に繋ぐ。
「ミアンドラ様、もう撃ちませんから押し上げて結構です」
「ありがとう。いい感じにまとまってる」
「存分にどうぞ」
ガンゴスリの『ルイーゾン』はほどよくこなれてきた。心配せず見ていられる。司令官の少女も機体特性のレクチャーに熱心に聞き入り、一生懸命有効な運用法を導き出そうという姿勢を感じられる。
ルオーはクアン・ザを部隊の最後尾付近につけた。
◇ ◇ ◇
エスメリア・カーデルは行き詰まりを感じている。
指揮官候補生の彼女にとって、現状のパイロット職は下積みとなる。現場を知って、のちの指揮に活かす勉強をしている意味合いが強い。
国軍観兵試合では歴代最優秀と噂される成績を誇る彼女なのに、不安は常につきまとっている。アームドスキンの操縦でいっぱいいっぱいになっている感覚が拭えないでいた。
(ミアの背中がどんどん遠くなってしまっている)
不安の中心にあるのはその一事だ。
(さっきもヘレンおばさまに加速が悪いと叱られてしまったし)
七つも年下のミアンドラ・ロワウスはすでに遠征艦隊司令まで任じられている。特殊な経緯に基づく拝任だったが、後輩が時を置いてもその地位にいられるのは見合う実力と信頼を勝ち得ているからに他ならない。
(そもそもスタートラインで大きくリードさせてもらえてたのに)
軍閥のカーデル家は優秀な指揮官を輩出する血筋として有名。だから、本国一とも名高い民間軍事会社が専属となっていた。環境も良く、試合で成績を残せたのは当然の帰結である。
比して、ロワウス家はこれまでパイロットの家系とされていた。ゆえに、環境は非常に悪かったといえる。それなのに彼女は頭角を現してきた。
(ルオーとの出会いっていう最大の幸運があったとしても、彼女のセンスは十分に天才的って思う)
部隊全体を三次元的に捉え、適切な命令を下すミアンドラの姿は大きく見える。エスメリアは部隊の中で自分がどの位置にいるのか把握するのが精一杯だというのにだ。情けない。
もちろん、座っている位置も違う。情報を統合している司令官ブースが恵まれているのは否めない。それでも、ミアンドラが自分で勝ち取った席にいつになれば手が届くのか未だ想像もできていない。
(才能の差なのか。一度水を開けられるとこんなにも遠く感じる)
仲は悪くもないが、相談できる内容ではない。
(私になにが足りない? 幸運だけじゃない。覚悟でもない。もっと別の要素)
ミアンドラにあって彼女になかったもの。幾つか思いつくがどれも違う気がする。悩みがさらに踏み込みを甘くしてしまう。
(一つあった。苦難だ)
集中力の中で閃きに出会う。
少女は年齢のこともあって士官学校では浮いた存在だった。軍閥の中で家柄も批評され、肩身の狭い思いをしていただろう。それでも、ミアンドラは負けずに前を向く気概があった。
(結局、私は慢心していたのだ。置ける環境を自身の才覚と勘違いしていた。努力するフリだけして気概を失っていたかもしれない)
ルオーを求めたのも環境を良くしたいという甘えの感情からのように思えてきた。
(ミアはいつも気を張って生きてきたんだろう。私には無縁だったものだ。その差が今、こんな形で表れてしまっている)
しかし、エスメリアはどうすれば気概を取り戻せるかわからないでいた。
次回『先を見据えて(1)』 「私はそれに見合う成果をまだ……」




