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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
意地を通せば窮屈だ

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難関越えて(1)

 通常航行なら二週間掛かる距離を、短い超光速航法(フィールドドライブ)をしてチニルケール号は四日で戦場跡デブリ帯近くに到達する。主星を周回しているこの宇宙ゴミの群れはあと二ヶ月ほどは惑星リコレントの公転軌道の外側近くを回っている。


「見た目でわかりやすいものでもないのね」


 ロザリンドは実物に目を凝らしつつ言う。近場の二つくらいが実視できるだけで、他はシンボルマークされていないとそこにあるのかも定かでないくらいにしか見えない。


「二百年以上前の代物でしょう? 視界を覆うほど浮いていればぶつかり合って融合するか、どこかに飛んでいってしまっています」

 ルオーが説明してくれる。

「そうよね。そんな大きく見えないけど、近づけば相当大きいんでしょうし」

「小さいものは特に大きなデブリに吸収されるか、軌道を維持できずに遥か彼方です。この軌道のこの位置が重力中和点(ラグランジュポイント)だから、それなりの質量のものが残っているんです」

「でも、ここまで希薄だと戦中って感じしないんじゃない?」

 最近できたものという感じがしない。

「あとで加工して付け足すそうですよ。だからスタント機にはプラスするデブリがモデル表示されます。模擬的にですけどね」

「案外面倒?」

「有るものとして演技する側は。画面上は設置するだけで自動で合成処理してくれるらしいです」


 サイズの書かれたシンボルがモニタに表示されるという。スタントパイロットはそれを有るものとして操縦せねばならない。


「そこまでしてできた映像があるんだから、私たち演者は合わせた芝居くらいできないとね。厳しくしてくれない?」

 このあとはレッスンの予定である。

「掴めない感じです?」

「ピンとこない。だから遅れてるのか、単に慣れが足りなくて下手なだけなのか自分でもわからなくて困ってる。嫌ってほど頭の中でシミュレーションしてるのに」

「ああ、そんな感じですか。だとすると、たぶん横でなんだかんだ言っても上達しないと思いますね」

 思わず移動の足が止まる。

「向いてない? いくら練習しても意味ないんだったらショック」

「違います。これまでと同じ方法論では上達しないという意味です。頃合いなのかもしれません」

「別の練習法があるの?」


(それなら早く言ってよ)

 不満が先に立つ。

(でも、頃合い? 習熟度が必要な練習法ってこと?)


 練習してイメージするアームドスキンの動きと自身の操作が一致しないのが壁になっている。それは彼女のような演者でも、実際のパイロット候補でも同じなのかもしれない。


「どこに行くの?」

 ルオーは撮影コクピットのほうに行かない。

「あれではブレイクスルーは起きません。感覚的に掴むのが大事です。なので、実際に動かしてみましょう」

「それは……。こんな環境でも駄目なんじゃない? 事故でも起こそうもんなら大問題。それどころか私が逮捕されない?」

「されませんよ」


 欲しいと思ったがアームドスキンライセンスには手が届いてない。実機を動かす免許がないのに動かせば犯罪である。


「撮影コクピットの操縦系はダミーです。あれを本物の操縦殻(コクピットシェル)にしてくれてたら話は早かったのかもしれません。まあ、お安いものでもありませんし」

 青年は苦笑いしている。

「ゲームするぅ?」

「あとで少しだけ遊ばせてもらいましょうか?」

「するぅ」

 クーファが喜んでいる理由がわからない。

「ゲームって?」

「スタント機を借りて実機シミュレーションをします。機体は動かさないで操縦系だけ生かしてバーチャルな操縦を体験してみましょう」


 そんなことができるのかと目を丸くする。ただ、実機シミュレーションという単語には聞き覚えがあった。確か、アームドスキン操縦マニュアル系の動画の中で出てきた単語のはずである。意味がわからなくて聞き流していた。


「触ってもいい機体、あります?」

 ルオーはアームドスキンの管理もしている道具班に尋ねる。

「近くに誰もいないのは当面加工する予定のないやつだからいいぞ」

「ありがとうございます。じゃあ、一機起動しますね」

「わかった。一応表示出しといてくれ」


 万が一のことがないよう無闇に近づかないような表示を出す措置を求められる。ずいぶんと念入りだと呟くと、それくらい危険なマシンだと教えられる。


「こんな雑然とした環境では事故が起きかねません。事実、事故が起きた過去があるからああして注意喚起が徹底されているんでしょう」

「取り扱いが雑すぎるの?」

「実戦の現場ではもっと雑然としてますね。表示なんか出してません。その代わり、携わる者皆がどれだけ危険なものか意識に刷り込まれている感じです」


 要は、コンテンツビジネスで扱う人間の意識が低いのだと言われたようなものである。それが兵器で、ちょっとした操作ミスでも人ひとりの命くらい簡単に奪ってしまうものだという意識が乏しい。


「では、乗ってみましょう」

 青年は造作もない感じで言う。

「ちょっと緊張する」

「それくらいの感覚がいいです」

「クゥ、してなぃ」

 嬉々としてついてくる。

「いささか甘やかしすぎましたね。反省してます」

「システムに怒られることしなくてぇ」

「素直なのはいいことです」

 褒められて顔がほころんでいる。


(クゥでさえ意識あるんだ。私のほうがよほど素人)


 ロザリンドは若干落ち込んだ。

次回『難関越えて(2)』 「機体は動かないんじゃなかった?」

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