641.もっと先の幸せへ
手紙を出して、ディの様子を見に行く。まだ赤子でベビーベッドから降りることは少ないけれど、触れ合って私を覚えてもらわないと。子供部屋を見回し、足りないものも確認した。これは乳母や侍女も行っている作業よ。意地悪な確認のつもりはなくて、癖みたいなもの。
ユリアーナとユリアンを育てたときは、本当に忙しかったの。お母様がいない状態で、双子は一緒にイヤイヤ期や人見知りを起こすんだもの。仕事に必死のお父様を巻き込めなくて、エルヴィンにも迷惑をかけたわ。今になれば懐かしい。
ある程度大人なら、懐かしいで済むけれど。エルヴィンはどう思っていたのかしら? ふと気になった。お父様をお呼びするとき、エルヴィンも同行できないか頼んでみましょう。こういう機会でもなければ、聞けないでしょう。
抱っこすれば笑顔になるディルクの頬に口づけ、乳母に渡す。そろそろお乳の時間だわ。そのタイミングで退室し、四人の子供の元へ向かった。きっと今頃、子供になって遊んでいると思うの。
ヘンリック様は器用そうに見えて、そういうところ不器用だから。童心に戻るのではなく、本当に子供らしく遊んでいいと思う。子供時代が少なすぎる夫を思いながら、芝生の庭へ向かった。
本邸に近く、日当たりがいい。大きな木々は外側に並ぶだけで、走り回るには最適な場所だった。子猫達も籠に入れて日向に出してもらったわね。今は立派な成猫よ。この世界に避妊手術はない。オス猫との接触は厳禁ね。数が増えちゃうもの。
靴を履き替えて外へ出れば、眩しさに目を細める。しばらく手で影を作り、慣れるまで待った。明るい芝生の色は、庭師が丹精してくれた証。
ちくちくしない柔らかな葉が茂る中を、レオンが走っていた。ランドルフが追いかけ、ローズはヘンリック様の肩車ね。指さして「あっち」と指示を出している。追いかけっこかも。近づいた私に気づいて、ヘンリック様が足を止めた。
「やぁ! もっちょ!!」
止まるなと訴えるローズが暴れる。落ちそうになって、後ろからベルントが手を貸した。するりとベルントに乗り換え、ローズは兄達を追いかけるつもりみたい。情けない顔で「ローズ?」とご機嫌伺いする夫に、ふふっと笑みが零れて肩が震えた。
「ヘンリック様。こちらへいらして」
駆け寄って手を差し出す夫に触れ、並んで子供達を見つめる。
「こんな幸せがあるとは知らなかった。仕事がうまく回った時より、すべての書類を片付けた達成感より、ずっと素晴らしい」
突然の言葉に驚いて見上げると、彼の目は子供達を追っていた。口角が上がって、整った顔に柔らかな笑みが浮かぶ。写真で残したいくらい、素敵な表情だわ。
「君のお陰だ、ありがとう……アマーリア」
「そう思うのであれば、リアと愛称で呼んで下さらない? あなた」
もう一段階上に進みましょう。あなたの幸せにはもっと先があるんですもの。




