629.成長が少しずつ目に見える幸せ
ローズの積み木事件ですっかり忘れていたけれど、マルレーネ様から手紙が届いていたのよ。朝食後に、そっと差し出された手紙にはっとする。あの時放りだしてしまって……フランクが拾ってくれたみたい。有難いわ。
お礼を言ってペーパーナイフと一緒に受け取る。正面ではランドルフがベーコンを綺麗に切り分けて、レオンが見様見真似でナイフを使っていた。危険なようだけれど、自分で使わないと覚えないわ。多少手を切っても、それは経験になる。
そわそわと手を出しそうなヘンリック様には、絶賛イヤイヤ期のローズを任せた。お膝の上で「やっ」を連発している。ふふっ、困っているヘンリック様も可愛いわね。手紙を読み終えたら助けなくちゃ。
食後でもいいのだけれど、本来は昨夜読む予定だった。もし今日明日の予定が書かれていたら、間に合わなくなってしまうわ。開いて目を通し、少し考える。明日の予定はなかったはずね。
「フランク、代筆をお願いできる? 明日にお伺いしますと」
返答を伝えながら、開封した手紙をそのまま渡す。もし封筒にしまったら、家令や執事であっても読んではいけない内容になるの。読める状態で渡すのは、目を通して返事を書いてほしいから。彼は心得た様子で受け取り、一礼して壁際に控えた。
「やぁ!」
大声で叫んだローズだけれど、手は出なかった。仰け反って「卵料理は嫌」をしながら、手で払いのける仕草はなくて。昨日の事件が教訓になっているようね。
「あら、レオン。すごく上手だったわ。もう一度見せてくれる?」
褒めるときは上の子から。伯爵夫人だったお母様の子育て方法よ。私は恵まれているわ。前世の母も、今世の母の記憶もある。そのうえ、保育士だった記憶まであるんだもの。三回子育てした熟練みたいだった。得した気分ね。
「んと……こう!」
大きなナイフを器用に扱うレオンが、さくっと切り分ける。皿を引っ掻く音もしないし、手を滑らせることもなかった。すごく上手だわ。心から褒めて、ランドルフのお皿の綺麗さに驚く。順番が違うけれど、いいわよね。
「ラルフのお皿は綺麗ね。作法が身についている証拠だわ」
「ありがとう、ございます」
照れたランドルフの皿を覗いたレオンが、こてりと首を傾げた。自分の皿を引き寄せて、並べて確認する。ちらりと私を見て、端に残っているパンで拭った。卵の黄身とベーコンの油を掬って、一口でぱくり!
「ほふほ!」
僕も! 綺麗になったとお皿を示すも、頬にパンがたっぷりだった。ハムスターに似ていて、頬を指でつつきたくなるわ。
「レオンも上手にできたわ。次はごくんが終わってから話してね」
叱らずに、軽く教える。もぐもぐと口を動かしながら、頬を両手で包むレオンを微笑ましく見守った。さあ、次はローズとヘンリック様の食事を手伝うとしましょう。




