626.甘さが招いた事故
マルレーネ様からお手紙を預かったと聞いたのは、夕食後だった。渡された手紙を膝の上に置き、子供達を見守る。手紙を読むのは寝室に引き上げてからにしましょう。いつも通りの団欒の間で、レオンとランドルフが積み木を始めた。ローズも加わるけど、途中まで積んだ木が崩れてしまう。
「やぁ!」
「もっかい、やって」
レオンに促され「やっ」と唇を尖らせる。どうするのか見守っていたら、レオンは横を向いて自分で積み始めた。ランドルフはレオンを手伝うように、崩れた積み木を掻き寄せる。
「やなの!」
近くの積み木を掴んで叩きつけようとしたところで、さっとマーサが入った。積み木ごとローズの手を掴んで止める。嫌だと手を振るローズを注意しようとしたところで、積み木がマーサの顔に当たった。頬だけど、目に近い!
「マーサっ! ヘンリック様、ローズをお願いします」
顔を歪めた彼女の姿に、ぱっと立ち上がった。マルレーネ様の封筒がはらりと落ちるも、そのままマーサに駆け寄る。慌てて続いたヘンリック様が、茫然としているローズを捉まえた。暴れることも忘れて固まるローズは痛々しいけれど、マーサの目や顔に傷が残るほうが大変よ。
「マーサ、どこにぶつかったの? 痛かったでしょう、ごめんなさい」
同じ部屋にいたのに、任せ過ぎたわ。私の娘なのだから、私が受けるべき傷だったのに。泣きそうになりながら、きゅっと唇を噛んだ。壁際のイルゼも駆け寄り、傷を確認して薬を持ってくるよう指示を出す。見た感じ、血は出ていなかった。
「奥様、落ち着いてください。角がこめかみに触れただけです」
「触れた? 叩いたでしょう。本当に申し訳ないわ」
すぐに医者も呼ぶよう手配した。遠慮するマーサに「私達が安心するためよ」と言い聞かせる。目が近い位置だから、角が目に当たっていたら……ぞっとした。これは一線を越えている。しっかり叱らないと!
レオンがローズに走り寄り、ぺちんと頭を叩いた。気合いを入れて振り返った私は、びっくりして立ち上がりかけた姿勢で止まる。
「ろじぃ、めっ! 積み木、痛いの……手、振ったら、だめ」
ぶつかったら痛いから、持っているときは振り回したらダメだ。説得するように話すレオンに、ローズが泣き出した。固まっていたローズが大泣きし、困惑したヘンリック様が抱きしめる。ぎゅっと首に手を回したローズは、わんわんと泣き続けた。
追いついたランドルフがレオンと手を繋ぎ、じっと見上げている。もし叱られるなら、自分も一緒にと思っているのかしら? フランクの視線はランドルフに固定されていた。
「レオン、きちんと叱ってくれてありがとう。立派なお兄ちゃんだったわ。ランドルフもありがとう」
あなた達の行動は間違っていないと肯定した。お風呂に入ると言い出したランドルフが、レオンを連れて廊下に出る。あの子は本当に状況を読むのが上手だわ。ローズを叱る姿を、レオンに見せたくないのね。二人のサポートをイルゼに任せた。彼女なら安心だもの。
「ローズ、マーサになんて言うの?」
自分が悪いことをしたと自覚しているかどうか。私はやや厳しめに低い声で話しかけた。ヘンリック様の陰に隠れて終わる話ではないのよ!




