625.遠慮しながら僕も!
その場で照れて終わる話と思ったのに、レオンは帰宅したヘンリック様に「お母様は、お父様、だーいすきだって」と説明し始めた。止めるのも変だし、顔が赤くなるのが自分でもわかる。ぎこちない動きで私を見つめるヘンリック様の青い瞳が、期待を宿して輝く。
小さく、かろうじてわかる程度に頷いた。レオンは嘘を言ってないわ。ただ私が恥ずかしいだけなの。ランドルフはにこにこと笑顔で見守っていた。子供なのに、変なところで空気を読むのね。だったらレオンがバラす前に止めてほしかったわ。
うわぁああ! 大泣きするローズの声が響く。先ほどお父様やエルヴィンを見送った際もそうだけれど、一緒に行くか尋ねたのよ。嫌だと拒否する。だから置いていけば、それが嫌だと泣いた。公爵邸の中にローズの泣き声が響き渡る。
数人の侍女が囲むようにして、ローズが現れた。専属侍女を務めるマーサの手を掴んで。本当は侍女なのに、子育てが上手すぎてレオンを任せたのが始まり。ローズが生まれても、当然のように面倒を見てくれた。乳母として乳を与えるのは別の方を頼んだけれど、もう退任している。
最近のローズはマーサにべったりだった。泣いたら抱き上げてくれるから、嬉しいのだと思うわ。私はどうしてもローズだけを優先できないから、とても助かっていた。レオンとランドルフの様子を確認したり、ディの成長を見守ったり。手が足りないのよ。
そう考えると、前世で複数のお子さんを育てるお母さん達に感心しちゃうわ。貴族夫人で使用人がいて手が足りていても、かなり厳しい状況だもの。
「お嬢様をお連れしました」
「……っ、ひっく」
泣きすぎて、目元が真っ赤だわ。それにしゃくり上げて苦しそう。膝をついて待てば、マーサを見上げた。手を離して、とてとてと揺れながら走って来る。どんと体重をかけた突進を受け止め、私はローズの金髪を撫でた。
「お母様……んと……」
僕も! と言いたいのに遠慮するの? こてりと首を傾げて、ローズを左側に移動させた。右手が空いているわよと示しながら、言葉を待つ。
「僕も、いい?」
「おいでなさい、レオン」
ぱっと表情が明るくなった。レオンは走って距離を詰め、私にぶつかる手前で減速する。こういう気遣いは、以前はなかったわね。ローズと同じで、全力だったもの。それだけ成長して余裕ができた証拠だわ。ゆっくりと張り付くレオンの黒髪に顎を乗せ、背中を右手で引き寄せた。
撫でる仕草に目を細める様子は、猫にそっくり。二人が落ち着くのを待ったら、ヘンリック様も玄関で立っている。羨ましそうな顔をなさらないで。母親は子供にとって別格なんですもの。




