619.双子の時とそっくりだわ
ローズが食べ物を散らかしたのは、テーブルの上だった。万が一、下に落として食べられない状態にしていたら、しっかり叱るわ。やっていいことといけないことは、躾として厳しく教えなければならない。
「ローズが散らかした料理は、私が頂くわ」
「え? アマーリア……それは」
「奥様! なりません」
私の宣言に、ヘンリック様とイルゼが即反応した。でもこれはローズの躾なの。きちんと説明するのは後にさせて頂戴。手で拾った料理を、フォークで口に運ぶ。隣のローズはその様子を凝視していた。
「おか……ちゃ、ま」
呼ばれてローズを見るけれど、もう一口。このサラダ美味しいわね。パンに挟んで食べると思えば、混じっていても害はないの。テーブルの上には洗濯された綺麗なクロスがある。その上に落ちた程度で食べられないことはないわ。
エルヴィンは苦笑いして終わりだった。というのも、実はユリアンとユリアーナの時も同じことがあったの。双子のイヤイヤ期は……それはそれは大変だったわ。私だって母親がいなくなったばかりで、不安定な時期だから大声で怒ったりもした。
懐かしく思いながら、もう……一口? 直前に、イルゼが皿を下げた。さっと引いて新しい皿を置く。ここにとって食べるよう伝える彼女に、静かに命じた。
「皿を戻して頂戴。これは女主人としての命令よ」
説明はまとめてするわ。今はローズと向き合う時間なの。静かに告げてじっと見つめる。困った顔のイルゼに、後ろからフランクが声を掛けた。
「侍女長、奥様のご命令です」
理不尽に思えようと、主の命令に従う。そう覚悟を決めた夫の言葉に、イルゼは頷いた。そっと戻された皿を受け取り「ありがとう」と伝える。目を見開いたイルゼが泣き出しそうだった。
「これ、ばっち」
「ばっちくないわ。同じご飯よ」
ローズの失礼な発言を否定する。おろおろするヘンリック様は、縋るようにフランクを見た。助けを期待したのでしょうね。でもフランクは私に従うと決め、静かに視線を伏せた。それがヘンリック様への答えだわ。育児は女主人である私の管轄だもの。
「お母様、おか……うわぁあああああ」
いろんな意味で感情が爆発し、レオンが泣き出す。ランドルフが抱きしめるも、椅子からお尻でずり落ちて走ってきた。テーブルを回り込むレオンを受け止め、ランドルフに「大丈夫」と伝える。足にしがみつくレオンを引っ張り上げ、膝に座らせた。
「うっ、おか……しゃ……っ。なんで、これ……っ」
泣きすぎてしゃくり上げるレオンの背中をぽんぽんと叩いて、説明を始めた。
「ローズが残したからよ。いまは難しい時期で、いろんなことが気に障るの。これは大人になるための通過点だから、ある程度は仕方ないわ」
私の胸元に顔を埋めたレオンは、まだ納得していない様子。
「でもね、ご飯に八つ当たりはダメなの。作った人に悪いでしょう? 残すのも誰かに食べさせるのも違うわ。ローズが悪いことをしたら、お母様がお詫びをするのよ」
私が代わりになる。その姿を見て、いいことと悪いことを覚えてほしい。ユリアーナ達がそうしたように……ね。




