615.待っていたけれど眠ったみたい
食後の団欒が終わると、ヘンリック様はお父様を執務室へ誘った。お仕事の話ではなさそうなので、お任せする。たぶん……ユリアーナの件ね。
「おとちゃ!」
「お父様は用事があるの。いい子はお風呂に入って寝ましょうね」
「あい!」
この頃のローズは「いい子」というフレーズがお気に入り。褒められたときによく耳にするから、嬉しい感情が蘇るみたい。自分の部屋へ元気に帰っていった。
レオンはランドルフと手を繋ぎ、私を振り返る。笑顔で「おやすみなさい、二人とも。風邪をひかないようにね」と見送った。ほっとした様子で、レオンは自室に引き上げる。といっても、子供部屋は私達夫婦の寝室の少し先にあるの。
レオンの側近候補になったランドルフは、一応まだ預かりの身よ。だけど、二人はお互いに必要としていた。一階の客間の中に夫婦宿泊用の続き部屋があったので、そこを改装してレオン達が使っている。間の扉はそのまま活用し、レオンとランドルフが廊下に出なくても行き来できる形ね。
ローズは一人部屋なのだけれど……マーサが侍女用の小部屋を使っている。客間だったお陰かしら? 主人に同行した侍従や侍女が控える部屋が作られていたの。最近ではあまり使わなくなったようだけれど、昔の貴族は当たり前に控えさせたようね。
夜中にお茶でも頼むの? と疑問に思ったわ。客間を宛がわれる貴族が、他家での宿泊の心細い年齢でもないでしょうに。イルゼ達の世代は知っているけれど、リリーの年齢になると話でしか知らない。他家で宿泊しても、使用人用の住居の一角を借りるんですって。
古い屋敷だから、昔の小部屋はそのまま。クローゼットのように使用していたけれど、客間を改装した子供部屋にはぴったりのスペースだった。過去には脱走した白猫のシロが、この小部屋に逃げ込んでいたわね。
ディは乳母がいるので、任せている。貴族夫人は基本的に授乳も世話もしないから、夫婦の寝室で眠るのよ。私も慣習に従っているけれど、子供達と一緒に眠る日もあった。レオンが不安がったり、ローズが愚図ったりする日がそうね。
寝室でしばらく待ってみたけれど、ヘンリック様はなかなか戻らない。リリーにも下がってもらい、私はベッドに潜り込んだ。温かさと疲れでうとうとしていると、ベッドがわずかに揺れた。
「ヘンリック……さま?」
「アマーリア、そのままおやすみ。話は明日だ」
頷いたのか、「はい」と答えたのか。覚えていない。ただ抱きしめる腕が嬉しくて、擦り寄ったのは……記憶にあるわ。でも翌朝目が覚めたら、完全に腕に抱き込まれていたなんて! 恥ずかしすぎる!!




