589.一時的なら可能だと思うぞ
ぐずぐずと泣いたローズは、結局疲れて眠ってしまった。ディは私より暗い色の金髪だから、金茶に近い色をしている。ローズはそれも羨ましいと思っているみたい。
「困ったわね」
苦笑してローズを乳母に預けた。ヘンリック様に相談してみましょう。何か、私の知らない方法を思いつくかもしれないわ。以前は「夫元気で留守がいい」だったなんて、嘘のよう。ヘンリック様が家に帰らない日は、不安になった。
仕事で他国の賓客の相手をしていると、帰って来ないのよ。泊まり込みで対応するのはわかるけれど、広いベッドが寂しくて、レオンと一緒に眠ったりする。
伯爵家の頃はお父様と男兄弟、私とユリアーナに分かれて眠った。シーツの洗濯量を減らしたかったの。懐かしいけれど、公爵家ではなかなか許されない。シーツを洗う仕事を減らせば、職にあぶれる人が出てしまう。そう聞いてから、人の仕事に手を出さないよう気を遣っているのよ。
ローズの部屋を出て、一日ぶりに夫婦の寝室へ戻った。ヘンリック様は読書をして待っている。そう、待っていてくれたの。仕事で疲れているでしょうに、本を読んで時間に気づかなかった振りをしている。こういう優しさは、持って生まれたものかしらね。レオンに通じる部分だわ。
「疲れただろう、アマーリア。ゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます、少し相談よろしいかしら?」
「もちろんだ」
本を畳んでベッドサイドに置き、立ち上がる。ベッドの上で聞いてもいいのだけれど、真面目な人なのよ。窓の近くに置かれた長椅子に並んで座り、話を切り出した。ローズが金髪を嫌がり黒髪になりたいと泣いたこと、染めるような方法がないかと考えていること。
真剣な顔で聞いた後、ヘンリック様の口元が緩んだ。あ、これは勘違いさせたかも? たぶん、自分と同じ色がいいと泣いた話に変換されているわ。微妙に違うけれど、指摘するのも気の毒ね。
「ずっとは無理だが、一時的なら可能だな」
「本当に?」
染め粉ではなく炭を使う。そのため周囲も汚れるから注意が必要だと言われ、なるほどと頷いた。思いつかなかったわ。炭なら一時的に黒くなる。洗ったり強くこすったりすれば落ちてしまうけれど……本人が納得するならいいわね。
「試してみましょう」
「そうだな。だったら服の色も濃色にして、炭が落ちても目立たないようにするか。それと手で触れないよう注意して、庭で試したほうがいい」
一度試してからにしよう。その提案にも頷いた。庭なら洗い流せるし、あちこち触っても被害が少ない。もし白い壁に黒い手形を残したりしたら……イルゼやフランクが卒倒するわ。その後で張替えを手配しそう。想像できてしまって、二人でくすくすと笑った。




