表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します【コミカライズ進行中】  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/699

70.羨ましく感じた ***SIDE公爵

 アマーリアの提案は、思わぬものだった。まだ給料の定めはしていないから、変更は可能だ。指摘されるまで考えたこともなかった。上司から仕事を押し付けられ、部下からは不満が突き上げる。そんな役職になってしまうとは……。


 俺の持つ権限を分けて与える。それにより、俺の決裁する書類が減るだろうと軽く考えた。だが、その点はアマーリアの評価に値するようだ。一人に仕事が集中する状況は、何かしらの不幸が重なれば瓦解するらしい。


 現状、もし俺が寝込んだりすれば……想像するのも恐ろしい混乱を引き起こす。国政は滞るし、陛下の元へ書類が山積みにされるはずだ。そして対応できず逃げる姿まで、すぐに想像ができた。にもかかわらず、この状況を維持してきた俺は、ただ怠慢に日々を過ごしていたのではないか?


 何もできず役立たずな父のようになりたくなくて、我が侭を振り翳して遊び呆ける母と同じ行為はしたくなくて。俺も逃げ回っていたのだ。その結果、やらなくてもいい仕事までかき集め、夢中になってこなした。


 処理済みの書類の山を見れば、成果がはっきりする。自分が役に立った証拠として、わかりやすかった。いつしか、誰もが俺に書類を持ち込み、当たり前のように周囲を巻き込む。文官達には申し訳ないことをしてしまったな。


 こうして家族で過ごす楽しい時間を、彼らから奪っていた。何かしらの詫びを用意するとしよう。だが独りよがりになると迷惑だから、フランクに相談する方がいいか。


 ちらりと視線を向けた先で、アマーリアは料理長への指示を出していた。ベルントを使い、レオンの夜食を注文する。気の利く彼女なら、何かいい案を出してくれるのではないか? そう気づいたら、そわそわしてきた。


 どう切り出せばいい。俺の口調は偉そうに聞こえるらしいから、頼み事をする際は柔らかく……それはどんな単語だ? やはりフランクに命じて、アマーリアに聞いてもらう方が不愉快にさせないかもしれん。


 考えがぐるぐると回る俺は、すっかり自分の世界に浸っていたようだ。ぽんぽんと肩を叩かれ、はっとする。


「ヘンリック様、どうなさいました? 移動しますよ」


「あ、ああ」


 同意して立ち上がる。食堂から絨毯の敷かれた団欒の間へ入り、用意されたクッションにレオンが寝かされた。だが起きてしまい、ぐずぐずと泣き始める。


「あらあら、赤ちゃんね」


 ふふっと笑うアマーリアは、優しくレオンを抱きしめた。涙だけでなく鼻水も垂らす顔も気にせず、胸元に引き寄せてぽんぽんと背中を叩く。落ち着いてきたのか、レオンの愚図る声が小さくなった。


 合図を受け取ったベルントの手配で、ジャムを塗ったパンが運ばれる。レオンは膝に座ったまま、もそもそと食べ始めた。ハムと野菜を挟んだパンも齧り、驚く量を平らげた。その間、ずっとアマーリアはレオンを見つめている。


 幼子にとっての母親がどれほど大切で、大きな存在か。あんな風に俺を見てくれる人がいたら、何か違っていただろうか。いい子ねと頭を撫でられる姿を見て、素直に羨ましいと感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
今からでもヘンリックさん、奥さんに甘えるのです!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ