300.主催としてのお出迎え
招待した貴族は、二十八にも及ぶ。三つの家が身内の不幸で欠席した。公爵家といえど、お茶会の主催である以上はお出迎えをする。用意された長椅子に腰掛けて……だけど。
「本当に平気なの?」
「爵位の差は奥様が思っておられるより、大きく価値がございます」
家令にそう言われたら、私に反論する余地はない。だって知らないんだもの。さすがにマルレーネ様や二つの公爵家の時は、立ってお迎えしないとね。
「レオン、いらっしゃい」
「うん……いいの?」
「ええ、もう平気よ」
先ほどの記憶が鮮明なのか、迷ってヘンリック様を振り返る。長椅子に腰掛けたヘンリック様のお膝で、手を伸ばす私と後ろの父親を何度も確認した。私が大きく頷けば、ぱっと花が咲くように笑顔になる。
「やはり母親には敵わないか」
ヘンリック様は口調ほど残念そうではなかった。口元は緩んでいるし、どこか嬉しそう。私が同じ立場なら、ショックを受けてしまう場面よ。首を傾げるも、理由がわからないので後回しにした。
夜会の入場と違い、到着時間は爵位と関係ない。玄関先で侍従が家紋を確認して連絡し、ベルントが読み上げた。まずは子爵家、次いで侯爵家、それから伯爵家。座ったままの私達に、丁寧に挨拶して広間へ向かう。何だか変な感じだわ。
「王家の馬車が到着なさいます」
膝の上のレオンを抱いて、すっと立ち上がった。この頃、レオンが重くなった気がするわ。ふらついた私を、ヘンリック様がすっと支えた。文官のような仕事なのに、がっちり逞しい腕が腰に回される。
「そろそろレオンも、自分で立たないといけないな。騎士として母上を支える準備をしなくては」
「……ぼく、できゆ」
騎士になる、その言葉はレオンにとって効果が高かった。ユリアンと鍛錬ごっこしている影響もあるわね。下ろしてと腕を叩かれた。大人ぶる息子が頼もしいし、とても可愛くて愛おしいけれど……同時に寂しいのよね。
下ろしたら、私とヘンリック様に手を繋ぐことを求めた。前言撤回、まだ子供だったわ。安心しちゃった。
「お招きありがとう、アマーリア夫人」
「ようこそお越しくださいました、マルレーネ様。私がご案内しますわ」
「あら、いいのよ。主催ですもの、ここにいらして」
からからと明るく笑い、マルレーネ様は背を向ける。その右手はルイーゼ様と繋いでいた。可愛いワンピース姿のルイーゼ様は、レオンに小さく手を振る。レオンは笑顔で手を振り返した。
仲直りできそうな二人を見て、王弟となったローレンツ様が会釈した。母と妹の後を歩く彼は、もう立派な騎士ね。微笑ましく王家の皆様を見つめた。
すぐにリースフェルト公爵夫妻の到着が告げられ、ほぼ同時にバルシュミューデ公爵家の馬車も止まる。重要なお客様同士が被ってしまったわ。パウリーネ様は前回のお茶会のことなど忘れたのか、笑顔で挨拶して広間へ足を向けた。
「ね? 本当にあの方は忘れてしまうのよ」
こないだ言った通りになったでしょう? 得意げに笑うユーリア様も見送り、さらに到着する侯爵家を始めとした招待客を迎えた。結構、数が多かったわね。




