297.すっかり馴染んだのね
家族にオイゲン様を加え、皆で大皿から食べる。取り分けた料理が足りなくて、オイゲン様がお代わりをした。侍女が追加でよそう姿を見て、私はぐっと拳を握る。公爵夫人が堂々と拳を振り上げるわけにいかないので、そっとテーブルの下で。
「ぼくも」
真似したレオンの拳をそっと包んで、隠した。
「レオン、あーん」
口を開けさせ、ロールキャベツに似た主菜を食べさせる。大きめのおかずだから、もぐもぐと噛んで黙った。オイゲン様にバレて、恥ずかしがったら……可愛いけれど、可哀想だもの。やっと安心して食べるようになったし、本人も許されて気が楽になったのだから。
お茶会で母親のハンナ様と顔を合わせても、堂々と振る舞えるように。祈りながら、お料理を頬張るオイゲン様を見守った。まだ頬がふっくらには足りないけれど、顔色は良くなったわ。
食事を終えたら、絨毯の部屋に移動する。離れの居間も土足厳禁にしたらしく、オイゲン様もすっかり慣れていた。脱いだ靴をきちんと並べている。レオンも真似して、靴を並べた。
右と左が逆だけれど……手を出すか迷っていたら、ベルントがさり気なく並び替えた。子供って、左右逆に履いても平気だったりするのよね。履き心地が悪いと思うのに、全然気にしないのはすごい。
絨毯の部屋の奥、お気に入りの壁際にヘンリック様が座った。すぐ近くに腰掛け、レオンを自由にさせる。珍しくユリアーナが座って動かないため、ユリアンを追いかけ始めた。エルヴィンはオイゲン様の隣ね。すっかり仲良しだわ。
「お茶会の準備をすべて任せてしまって、すまない」
「ふふっ、お茶会は社交ですもの。屋敷の女主人の仕事ですわ」
私が準備して当たり前で、ヘンリック様は王宮で難しい仕事をしているのだから。笑顔で返すが、本人は不満らしい。ならばと一つだけ手伝いをお願いした。
「このくらいの大きさの額が一つ欲しいので、任せていいかしら」
「ああ、もちろんだ」
細かなサイズはベルントに伝えればいい。頼まれたことが嬉しいヘンリック様は、お茶会当日は休みを取ったと誇らしげに報告した。こういうところ、本当に可愛いわ。将来のレオンも同じだといいけれど。隠し事されたら寂しいもの。
「エルヴィンは支度できた?」
「はい、オイゲン様と同じ形のクラバットピンを買いました」
見事な銀細工のピンを説明され、大きく頷いて聞く。膝に座るレオンも真似をして、大きく上下に頭を揺らした。ふらついたため、ヘンリック様の膝に抱き上げられる。
「よかったわ。ユリアーナはショールとブローチよね。ユリアンはどうするの?」
「ん? 俺はエル兄とお揃いのハンカチかな。ユリアーナが刺繍をしてくれたんだぜ」
あら、いつの間に。驚く私に、照れたユリアーナがぼそっと付け足した。
「お姉様とお義兄様、レオン様の分も頑張ってるのよ。お父様のは今日終わるし、オイゲン様にももう渡したの」
「はぁ?! 俺とエル兄だけじゃないのかよ……ま、皆がお揃いは好きだけど」
途中で失言だと思ったのか、ユリアーナを気遣うように付け足した。不器用な子ね。




