296.全員でお出迎えを
仲直りしたからか、レオンはオイゲン様を怖がらなかった。新しい兄が増えたと思っているのかも。レオンにとって家族は、ある日突然増えるんだもの。
私もそう、今まで屋敷に近づかなかったヘンリック様も、伯爵家の家族も同じだった。だから、オイゲン様に関しても、特に身構える感じはなかった。それどころか、ずんずんと近づく。逆にオイゲン様の方が、困惑顔で離れていくわ。
ちっとも距離が縮まらないので、レオンは一計を案じたみたい。突然走って体当たりした。避けたらレオンが転ぶと考え、オイゲン様は受け止める。その手を掴んで、しっかり繋いだらレオンの勝ちよ。
「つかまぁた!」
「え? あの……え、えええ?!」
困惑から一気に混乱へ。大声を出すオイゲン様に、レオンはきょとんとしている。自分が嫌われるなんて、考えたこともない。満面の笑顔で繋いだ手を自慢した。
「いぃ、しょ!」
一緒? いいでしょ? どっちか迷って、後者だと判断した。嬉しそうに手を揺らすレオンに「いいわね」と同意を返す。頷いてオイゲン様を見上げれば、彼は固まっている。
以前も思ったけれど、この子って驚くとフリーズするのね。大笑いするエルヴィンが、何度もオイゲン様の背中を叩く。するとスイッチが入ったように、緊張が解けた。動き出すオイゲン様は、対応がわからず困っているけれど、どこか嬉しそう。
「あら、ヘンリック様かしら」
馬車の音がして、使用人達が手を止めて並んだ。結婚式の後はほぼ全員揃ったが、普段は近くにいる使用人だけ。音が聞こえる範囲くらいなので、半分は上級使用人となる。フランクやイルゼは、この時間になると玄関付近にいるもの。
車輪の音が止まり、扉が恭しく開かれた。ヘンリック様は玄関に入り、ぱちくりと瞬く。全員が揃っていたので、驚いたみたいね。近づいて「おかえりなさい、ヘンリック様」と声をかけた。すぐに笑顔を見せて、帰ったと応じる。
ベルントが上着を預かり、バッグを手にした侍従が部屋へ向かう。ヘンリック様が着替える間に、全員で食堂へ移動した。待たなくていいのかとオイゲン様が不安そうに尋ねる。
「問題ないのよ。ケンプフェルト公爵家では、これが日常なの」
ヘンリック様も食堂へ直接来る。説明し終えたところで、食堂に到着した。お父様が扉をくぐり、ぞろぞろと続く。丸いテーブルは、思い思いの位置に座った。席順を気にするオイゲン様は、エルヴィンに言われて近くの椅子に座った。
「オイゲン、お前って細かいんだな」
「……ユリアン、言葉遣い」
注意したけれど、オイゲン様はこのままでいいと笑った。まだ少しぎこちない笑顔だけれど、笑えるようになってよかったわ。お茶会でハンナ様と再会する時には、笑顔で接してほしい。
「お姉様、これ……ありがとうございます」
ユリアーナが幸せそうにショールを撫でる。嬉しくて幸せで、手離したくなくて。ずっと持ち運んでしまうのよね。ユリアーナはいつもそう。お母様の作ったお人形も、ずっと抱っこしていた。
「頑張ったのはユリアンよ。私は商人を紹介しただけ。でも気に入ってもらえて嬉しいわ」
「ぼくも! いっちょした」
選んだと主張するレオンだけど、ユリアーナに正確な意味は通じなかったみたい。あの様子では、選んだ場所に一緒にいたと思ってるわね。




