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【書籍化】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します【コミカライズ進行中】  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
第三章

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292.泣いたカラスがもう笑った

 食後、レオンをヘンリック様に預ける。先ほどの喧嘩は記憶に残っていたようで、レオンは一緒に行くと言わなかった。幼くても、きちんと説明すれば理解してくれる。


「レオン、私はユリアンとユリアーナに仲直りをさせてきます。ここで待っていて頂戴。寝る時間までに帰ってきて、絵本を読むわ」


「……うん」


 抱っこするヘンリック様に顔を埋めて、後ろ姿で返事をする。不満だけど、我慢する……分かりやすい表現だわ。黒髪を撫でて、ちゅっと音を立ててキスをした。


「俺も」


 強請るヘンリック様の頬にも同じキスをする。照れちゃうわ。赤い顔で歩き出すとレオンの声が聞こえた。


「やくちょく……!」


「ええ、約束よ。寝る時間は本を読みましょうね」


 離れまで歩く時間が惜しくて、周囲をきょろきょろしてからスカートを摘まんだ。足首が見えるギリギリの裾を踏まないよう、走り出す。


「奥様! いけません!!」


「今日だけは許して!」


 叫ぶリリーに叫び返し、そのまま離れまで走り切った。なんてこと、息が切れるわ。家事や買い物をしなくなって、運動不足だと思う。体力が落ちていると判断し、今後は運動を増やそうと決意した。乱れた息を整えてから、離れの扉を叩く。


 後ろから競歩みたいな速足で近づく侍女二人が到着する頃、お父様が扉を開いた。


「悪かったな。叱って部屋に戻したが……」


「私が話します」


 まずはユリアーナから。なかなか口を割らない妹に、私はお金の流れを説明した。最初はすべて私が使うお小遣いから出していた。でも今回のドレスは、管理人が取り戻した伯爵家の収入から出ている。過去奪われたお金も、親族の財産や家土地を売却して回収し始めた。全額には程遠いが、それなりに高額だ。


 ずっと貧乏を強いられたのだから、少しくらい贅沢をしてもいいのよ。


「使っていいお金なのよ」


「……だって、またなくなったら」


 先のことまで考えてしまい、どうしても贅沢できないという。内心では同感だけれど、笑顔で構わないと伝えた。そのときはそのとき考えればいい。先を考えすぎてもいいことはないわ。もちろん、無駄遣いは以ての外だけれど。


 納得したユリアーナを置いて、隣のユリアンが使う私室へ入る。膝を抱えてベッドに座る弟は、唇を尖らせていた。泣きたくなくて、我慢しているのね。見慣れた癖を懐かしく思いながら、隣に座って抱き寄せた。


「ユリアーナに綺麗なドレスを着てほしかったのよね? そう伝えたらよかったのに」


「言ったけど」


 反論された。妹の言いたいこともわかるし、お金がなかった頃の苦労を思うと引き下がるしかない。でも今しかお金がないなら、なおさらのこと……自分の分まで妹を飾りたかった。尖らせた唇が零す愚痴を、相槌を打ちながら聞く。


 気持ちのすれ違いだけど、本当にこの二人らしいわ。お互いのこと、家族のこと、心配する内容は同じなんだもの。


「こんな解決はどう?」


 私のお手伝いをして、ユリアンは報酬をもらう。その報酬をユリアーナの装飾品にするの。


「やる!」


 泣いたカラスがもう笑った。

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― 新着の感想 ―
( ´;ꈊ;)くぅっ、泣かせやがる…
なんて良い子達でしょう。 お互いを思いやってケンカするなんて不器用さも可愛いですね。
ヘンリックさん、キスのおねだりw 二人とも、家族の事を思ってて素晴らしい兄妹です!貧乏暮らしが長くて、不安になっちゃうんですね。でも、無事に解決!良かった!
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