290.仕事を増やすのが奥様
テーブルごとに絵画を選び、その色や絵柄に合わせて食器を選ぶ。すごくいい案だと思ったのに、絵画を収蔵した部屋を見て後悔した。数千枚単位で並んでいるみたい。その上、絵画の分類が問題だった。
フランクによれば、色別に管理していない。まず種類、肖像画か宗教画、または風景画。大まかに分類され、その後、作家別に並んでいた。つまり、色を選び出すのに大騒ぎなの。声を掛けたら、使用人の半数近くが協力してくれ、三日がかりの作品チェックが始まった。
テーブルに飾れる大きさが理想なので、小さめの絵から開けていく。絵画は埃や日光で傷まないよう、厳重梱包されていた。解いては覆う作業の繰り返しだけれど、途中から分業される。解く人、確認する人、戻す人……迷惑かけているわね。
「ごめんなさいね、仕事を増やしてしまって」
謝罪しないのが貴族と言われても、悪いと思えば自然と口をついてしまう。叱られるかと思ったが、イルゼはからりと明るく笑った。
「構いません。奥様が仕事を作って、給料を下さるんですから。仕事がなくて、雑巾片手に歩き回るよりマシです」
侍女長なのに、雑巾片手は大袈裟よ。ふふっと笑ってしまい、周囲からも笑い声が漏れた。この辺から効率よく確認が進み、予定した三日を待たずして絵画が揃った。
何より驚きなのは、これだけの絵画を保有している財力ね。収集したご先祖様もすごいけれど、劣化させずに保管し、家令が管理している状況が驚きよ。お礼を言って、絵画を食堂へ運び込んだ。広間では、念を入れて大掃除が始まっている。
「掃除が終わったら運び込めるわね」
食堂が広いので、このまま保管しようと考えた私に、ベルントは別の案を出した。
「一度空いている客間で管理してはいかがでしょう」
面倒臭いと顔に出た私をよそに、フランクが淡々と指示を出した。
「私どもの仕事ですので、奥様はお気になさらずお申し付けください」
「でも食器との合わせもあるのに」
「ご安心ください、食器のリストも柄もすべて記憶しております」
イルゼに笑顔で言い切られ、絵画は運び出された。保管に日差しは大敵だから、その意味では正しいのかも。食器の柄合わせはイルゼに任せ、クロスの色はリリーが選ぶ。私がすることは……。
「おかぁしゃま。ぼく、でぃた」
満面の笑みで駆け寄るレオンを抱き上げ、指差す作品を確認する。こないだの猫ちゃん達と……これは難しいわね。人物らしき棒が描かれ、一本が複数の色で表現されている。着飾った誰か? それともお屋敷以外の人かしら。
「すごく素敵ね、お母様に説明してくれる?」
「これ、るぅ……らん、どぅふ、ちゃま……おとちゃま、おかぁ、しゃま……」
指差しながら説明された人物は、お茶会に参加していた人が中心みたい。あと何故か、いなかった双子やエルヴィンも交ざっていたけれど……問題はないわね。さすがにこの絵を飾ったら、親バカに過ぎる? でも、自慢したくなる力作だわ。




