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【書籍化】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します【コミカライズ進行中】  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
第三章

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284/700

284.小さな恋と思い出のお菓子

「気軽に、ローラントとお呼びください」


 挨拶を受けていたら、ヘンリック様の腕がするりと腰に回った。コルセットの上からなので、感覚は鈍いけれど。照れてしまう。まさか、ヤキモチなの?


 ユーリア様はしっかり者の長男と、やんちゃな次男と表現していた。貴族令息としては元気だけど、ランドルフ様は相手の気持ちを(おもんばか)って動けるわ。婿入りするなら向いているし、騎士も素敵だと思う。


 比べると、ローラント様は大人しそう。上品な振る舞いと穏やかな笑み、所作もとても綺麗だわ。確かに公爵家嫡男としての素質はありそう。


「ローラント様、お久しぶりです」


「久しぶりだね、ヴェンデルガルト嬢」


 リースフェルト公爵家のご令嬢が動いた。大人しくお茶を飲んでいたから、意識していなかった。穏やかに微笑む彼女は、母親譲りの薄茶の髪に父親そっくりの緑瞳だ。ローラント様に一礼し、少しだけ近くに座り直した。


 この子、ローラント様に恋をしているみたい。ちらりと視線を向ければ、マルレーネ様も同じ意見のようで、意味ありげな微笑みが返ってきた。二人で視線を向けた先、ユーリア様も知っている様子。


 将来、リースフェルト公爵令嬢からバルシュミューデ公爵夫人になれるかしら。ヴェンデルガルト・バルシュミューデ……想像してみたけれど、舌を噛みそうね。貴族夫人がフルネームで呼ばれることは少ないから、問題ないかも。


「お菓子も召し上がって」


 マルレーネ様に促され、いくつか取り分けてもらう。一つだけ、明らかに違うお菓子があった。パイ皮で何かを包んだ素朴なお菓子、肉か林檎か。柑橘も素敵ね。中身がわからないけれど、手のひらほどの大きさがあった。


 表面の照りは卵黄かしら。過去の料理経験から引っ張り出した知識で、お菓子を眺める。飾り切りが施されている。手元に届いた大きなお菓子を、ヘンリック様がひょいっと摘まんで半分に割った。


「え? そうやって食べるの?」


「さて。どうだったかな」


 にやっと笑うヘンリック様に、胸がどきっとする。ちょっと悪い表情も似合うのね。返されたお菓子は、迷った末にさらに半分にして齧り付いた。


「もうっ! ヒントを与えちゃうなんて狡いわね。ヘンリック殿は罰として、次のお茶会の主催を申しつけます」


「承知した」


 平然と返すけれど、準備するのはフランク達だ。このお菓子の食べ方、貴族向きじゃない。でもマルレーネ様もヘンリック様も知っていた。


「もしかして……マルレーネ様のお手製ですか?」


「ふふっ、気づかれちゃった。母とね、何度か一緒に作ったの。子供の頃はこれが楽しくて、美味しくて。結婚当初は何度か作って振る舞ったのよ」


 その後は作らなくなった。いえ、作れなくなったのかも。王族は窮屈な生活を強いられる。あれもダメ、これもダメ。気が強くお転婆な雰囲気を持つマルレーネ様は、徐々に環境に慣らされてきた。夫を亡くして王太后陛下になり、再び自由を楽しんでいるみたい。


 侍女達に紛れ、マルレーネ様に優しい眼差しを向ける女性が、お母様だったはず。地位が高くなり、柵が増えると自由は消えてしまうのね。私はその意味でも恵まれているわ。こんなに自由にさせてもらっているのだから。隣のヘンリック様に身を寄せた。

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― 新着の感想 ―
ホノボノ…まったり…。マルレーネさん、また自由を得られて良かったです! 親子で作る手作りのお菓子! ヘンリックさん主催のお茶会!良いですね!
ヘンリック様主催のお茶会。まぁ、準備するのは確かに家令をはじめとした商人たちなんだろうけどね。なんかね、アマーリアに楽しんでもらおうと、すんごい事になりそうなきがしなくもない
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