259.お留守番できる?
出かけるので、お父様にレオンを預けることにした。
「どちて? いっちょ……だめ?」
一緒に行きたいと訴えるレオンへ、着替えたドレス姿で手招きする。連れてってもらえると思ったのか、全力で走ってきた。玄関へ飾りのように置かれた長椅子に座り、レオンを抱きしめる。
「お母様はお仕事よ」
「おとちゃま、も」
むっとした顔で唇を尖らせ、お父様も仕事に行ったと恨めしく呟く。感情がとても豊かになったレオンを隣に座らせ、丁寧に説明した。
「お仕事は一緒に行けないわ。でも帰ってきたら、本を読みましょうか。他に何かしてほしいことはある?」
「……え、かく」
「いいわね、一緒にお絵描きもしましょう。レオンにお願いがあるの」
まだ尖った唇を指でふにふに押しながら、首を傾げて待つ。お願いと聞いて、レオンは瞬きをして唇を引き結ぶ。引っ込んだ唇から指を離し、話を切り出した。
「ヘンリック様がいないお屋敷から、私もいなくなるわ。だから、このお屋敷を守ってほしいの。お留守番できるかしら」
「お、るしゅ、ばん……」
「ええ、お留守番よ。皆を守る騎士様になれる?」
「うん!」
元気よく答えたレオンの笑顔に曇りはなく、ほっとして立ち上がった。よいしょと勢いをつけて、レオンが椅子から降りる。
首元まできっちり覆ったドレスは水色、明るい昼間にふさわしい色を選んだ。胸元に綺麗な紫のコサージュをつけ、同じ色のスカーフをレオンの腕に巻く。膝をついて目線を合わせ、スカーフとコサージュを示した。
「これが約束の印よ。私はお仕事を頑張る、レオンはお留守番をして頂戴」
「うん、できゆ」
覚悟が滲んだ目は、スカーフよりやや暗い紫色だ。いい子ねと頭を撫で、私は立ち上がった。
「いてらしゃ!」
今度はぐずらず、レオンの小さな手が振られる。それに振り返し、待っていた家族に向き直った。
「お父様、お願いしますね」
「任せてくれ、それと……その」
言い淀んだお父様に首を傾げれば、ユリアンが一歩踏み出した。
「俺が同行する」
「お茶会、よ?」
何しに行くつもりなの。呆れ半分でそう呟くも、譲る様子はなかった。いつもなら「私も!」と声をあげるユリアーナはユリアンを擁護する。エルヴィンは何も言わない。
もしかして、心配させたのかしら。少し迷って、ベルントを振り返る。彼はゆっくり頭を下げた。つまり、未成年であるユリアンは、招待状なしでも問題がないのね。執事としても反対しない。
「わかった、一緒にいらっしゃい。でも大人しく、ね?」
「はい、リア姉様」
こういう時は調子がいいんだから。ふふっと笑って歩き出した。後ろで思わぬ会話が繰り広げられ、足を止めて振り返る。
「レオン様、俺がリア姉様を守るから安心してくれ」
「うん、ぼく……おる、しゅば、する」
俺達の約束だ。ぐっと手を握り合い、二人は笑顔で別れた。なんだか、映画のワンシーンみたい。微笑ましいというより、男児の成長は早いのねと驚いたわ。




