255.それぞれの罰 ***SIDE公爵
ティール侯爵家以外とは、もう話がついていた。取り巻きのヘルダー伯爵家三男は、成人後すぐに独立させると明言する。伯爵家としての支援はせず、己の力のみで騎士なり文官なり、道を切り開く必要ができた。
バルツァー子爵家の次男は、文官の道を選ぶらしい。家を継がないため、やはり成人をもって縁を切ると子爵夫妻は決めた。この辺の決断は、俺は口出ししない。向こうが忖度することもあるだろうが、他家からどう見られているか。貴族にとって、ここが重要だった。
嫡子が相続する家と財産を守るのが、当代の最低限の責務だ。親の情に流され、子孫に害を及ぼさぬよう自制する。成人までは見逃してほしいと、頭を下げた両家に、俺はそれで構わないと頷いた。加えて、各家はお茶会の主催者であるバルシュミューデ公爵家に、賠償を申し出ている。
シラー男爵家は長男に問題があり、次男が跡を継ぐようだ。日和見主義の傾向が強い令息では、男爵家の未来に不安を感じるが……俺が関与する事案ではなかった。当人に責任を取らせたヘルダー伯爵家やバルツァー子爵家と違い、次男に表立った罰がない。これは不公平だと周辺貴族の目が厳しくなった。
後手に回り過ぎな気もするが、シラー男爵夫妻は迷惑をかけたお詫びにと土地を差し出す。だが飛び地になる。管理に手間がかかるだけで、我がケンプフェルトに旨みはなかった。それを理由に断ったところ、思わぬ家から申し入れがあった。
シラー男爵夫人の実家から、鉱山を一つ提示されたのだ。銀は掘り尽くしたが、水晶の出る鉱山だった。イエネス伯爵家の三女だった男爵夫人は、婚家と息子の危機に両親を頼ったのだろう。話し合った結果、鉱山一年分の採掘品を罰金として受け取ることで手を打った。公爵家として罰を与えた形が整えばいい。
金銭で解決する方法は、貴族社会で珍しくない。そこで得た金を、レオンの個人財産とする予定だった。王宮での仕事の合間に片付けた中に、ティール侯爵の名はなかった。自ら出向いて謝罪したいと伝えられていたからだ。
夜会が始まってすぐに顔を見せた彼は、憔悴している様子だった。息子が食事を摂らず、愛する妻が落ち込んでいるなら、さぞ辛い状況だろう。それでも次男オイゲンが間違っていたと考えるから、恨むことなく頭を下げた。
俺にできるだろうか。あのレオンが人を傷つける? 逆の立場を想像できなくて、頭は混乱した。それでもレオンが悪いことをしたら……公爵の立場を振りかざすのではなく、一人の親として謝るべきだ。アマーリアならそうするはず。
今回、あまり厳しい罰を求めなかったのは、アマーリアの顔が浮かんだことが一因だった。彼女は周囲とのバランスを気にする。何より、子供が苦しむような罰は望まないと言い切れた。以前なら厳罰を課したかもしれないが……いまの俺は望まない。
アマーリアがいるだけで、世界の色が鮮やかになる。だから曇らせないよう、俺のもつ全力で家族を守ろうと決めた。これがその一歩になるなら嬉しい。隣で「困ったわね」と笑うアマーリアを抱き寄せた。




