252.新しい王宮の人事発表
「年下と年上、どちらが好きかしら」
ふふっと意味ありげに微笑む貴婦人……ユーリア様が怖いわ。捕食前の肉食獣みたいよ。ユリアーナは私の陰で、静かに頭を下げる。礼儀作法はイルゼ達に教わったから、それなりに覚えたはず。
「どちらも好きですが、いまはお姉様を追うので手一杯です」
どういう意味? きょとんとした私の腰に手を回したヘンリック様が「なるほど」と唸るように呟いた。返しとして意味が通っているの? 私に社交は無理みたい。全然わからないわ。
「姉である君の真似をするのに忙しいそうだ」
ぼそっと通訳され、そのくらいなら私も理解できたけれど、と首を傾げる。嬉しそうなユーリア様がさらに追撃しようとしたところで、ラッパの音がした。びっくりして肩を揺らしてしまう。
「あら、陛下方がお見えね」
リースフェルト公爵夫人のパウリーネ様が、話を打ち切るように扇を揺らした。その勢いで扇が畳まれる。バルシュミューデ公爵が、ユーリア様の肩を抱き寄せて何かを囁いた。会釈して離れるご夫妻を見送り、残ったリースフェルト公爵夫人ともう一度挨拶を交わす。
「パウリーネと呼んでくださいね。私だけ仲間外れになってしまうわ」
柔らかな口調で名前呼びの許可をくれたパウリーネ様も、侍女が呼びにきて離れる。何かあるのかしら。
「新しい体制を組むにあたり、役職が増えた。その関係だろう」
ヘンリック様の短い説明の意味は、すぐにわかった。
王太后マルレーネ様は、カールハインツ陛下のエスコートで玉座に座る。本来なら王妃殿下が腰掛ける席だが、カールハインツ様はまだ独身だった。王太后陛下の夫である先代王も崩御なさったので、この形に落ち着いたようだ。
ラッパで注目した貴族に、新しい人事が公表される。王女ルイーゼ様の教育係にユーリア様が決まり、夫であるバルシュミューデ公爵も外交関係の役職を得た。リースフェルト公爵が地方経済の立て直しを発表する。
王宮内の人事も大きく変更され、新しい王の治世に向けて舵を切るのだろう。これは皆様忙しくなるわね。他人事のように考えていると、ヘンリック様が穏やかに切り出した。
「今回の改革で、俺の仕事は半減する。今までの形がおかしかった。すべて俺の署名で国が動くなど、危険でしかない」
独裁者になろうと思えば、いつでも国を乗っ取れる状況だったのね。王家に等しい権威を持つフォン・ケンプフェルト公爵であっても、権力が集中しすぎだ。権力が分散すれば、互いに監視し合うから偏りが減る。
でも、そんな問題より大切なことがあるわ。
「では、定時で屋敷に帰れるようになりますね。よかった、レオンも喜びます」
「アマーリアは?」
即座に問い返され、ぽっと赤くなってしまう。レオンも、と言ったではないですか。普段は察してくれるのに、意地悪するなんて。顔を背けたけれど、答えないのは悪い気がした。
「レオンも、私も……です」




