248.挨拶ラッシュでへとへとよ
拝謁を終えた貴族同士の交流が始まり、ヘンリック様は対応に追われた。私も公爵夫人として笑顔で応じる。レオンはひとまず抱っこした。時間がかかるようなら、お父様に預けようか。
視線を向けた先で、お父様も挨拶ラッシュに巻き込まれていた。長女の私がケンプフェルト公爵夫人になり、管理人が派遣されて領地や屋敷を取り戻した話は有名だ。噂に聡い貴族はもちろん、動いた貴族の多さに慌てて参加する貴族まで。大量に群がっている。
エルヴィンは跡取りとしてお父様に付き添い、双子を逃した。壁際でひっそりと息を殺し、ユリアーナはお人形のように微笑む。黙っていれば淑女そのものだった。顔のよく似たユリアンが近づく連中を威嚇する。睨みつけるかと思ったら、美しい笑みを浮かべて撃退していた。
貴族らしい振る舞いをみせる双子だが、レオンを預けるのは危険だわ。もし眠くなったり退屈になったりしたら、控え室に下がらせた方が安全ね。そのついでに双子も控え室に……算段しながらも、表面上は笑顔で挨拶を交わす。
飲み物を運んできた王宮の侍従に、ケンプフェルト公爵家の執事を呼ぶよう伝えた。これでベルントが到着すれば、彼に任せられる。気づいたヘンリック様が「助かった」と微笑み、うっかり正面から見てしまったご夫人が頬を赤らめる。
お父様が縋るような目をするが、こちらも動けないのよ。察して頂戴と思ったタイミングで、王宮の侍従が割って入った。
「シュミット伯爵家の皆様、陛下へのご挨拶をお願いいたします」
公爵家三つに続き、侯爵家が一段落したらしい。フォンの称号があるから、伯爵家の中で一番最初に呼ばれる。他の貴族に会釈して離れ、双子も連れて挨拶へ向かった。視線で追った先で、ベルントを発見する。彼は真っ直ぐにこちらへ来た。
人混みをするすると抜けて、レオンを預ける。退屈だったのか、何度も欠伸をしていたわ。壇上のローレンツ様はお行儀よく座っているけれど、ルイーゼ様はもうダメそう。飽きてきて足をぶらぶらと揺らし始めていた。
挨拶を終えたところで、シュミット伯爵家も一緒に連れ出すよう頼む。社交は最低限必要だけれど、夜会もあるの。今から質問や挨拶で詰められても、きっと右から左に抜けちゃう。事情を察したベルントが、さり気なくお父様達を誘導して退出した。
抱き上げられたレオンは、途中でお父様の抱っこに代わっている。私やヘンリック様がいないから、チャンスよね。見送ってから一時間ほど挨拶を受け、笑顔が強張ってきたところでヘンリック様が動いた。
「すまないが、少し疲れたようだ。失礼する。アマーリア、一緒に来てくれ」
「はい、ヘンリック様」
公式の場だから「旦那様」や「公爵閣下」の方が良かったかしら。控え室に逃げ込んだあと聞いたら、ヘンリック様のままでいいと返された。それぞれソファーにぐったりと懐き、動く気になれない。可能なら楽な服装に着替えて一眠りしたいわ。
レオンはお昼寝用にベッドを運んでもらい、双子に挟まれて寝ていた。羨ましいけれど、私はマルレーネ様との約束優先ね。




