247.新王の決意と宣言
カールハインツ王太子殿下は、この宣誓を終えれば国王陛下になられる。国の歴史が書き加えられる一瞬に立ち会っていた。緊張しながら、カールハインツ様が立派に振る舞えるよう祈る。手は自然と祈りの形に組まれた。
「大丈夫だ、殿下はお強い」
ヘンリック様は確信した響きで、言い切った。以前から王太子殿下を知る夫は今後の活躍を信じ、私はまだ若い彼の未来を祈る。忙しく仕事をこなすヘンリック様は、若き国王陛下の治世を支えるのだろう。
王太后マルレーネ様も、後見人として成人までカールハインツ様を守る。そのため敬称が陛下に変わった。責任も覚悟もこれまで以上に求められる立場だ。
「我はカールハインツ二世として、豊かで安心して暮らせる強い国を約束する。諸侯らの期待に応えられるよう、主人として努めよう。王位に就くことをここに宣言し、国王の義務を果たすことを宣誓する」
口上に決まりはない。フルネームで誓う王もいれば、通り名を口にする王もいた。カールハインツの名を持つ王は二人目で、彼はその通称名を掲げた。異論なくば、その場で貴族は最敬礼を行う。
私は深く膝を折って跪礼を披露し、ヘンリック様も胸に手を当てて頭を下げた。教えた通り、レオンは両手を揃えてお辞儀をする。シュミット伯爵家もそれぞれに礼を行い、しばらく広間から音が消えた。衣擦れが止まったところで、顔を上げるよう指示が出る。
順番に上位者から頭を上げていき、さざなみのように後ろまで伝わった。人々の声が重なり、ざわざわと音が膨らむ。ほっとした私は、無事に即位式の宣誓が終わったことに頬を緩めた。ワインやシャンパンが配られ、思い思いに手を伸ばす。
「ご立派だったな」
お父様の呟きに、双子は無言で頷いた。ほぼ同じ年齢である陛下に、エルヴィンは憧憬の眼差しを向ける。いい刺激になったんじゃないかしら。
「あれ、食べていい?」
用意された料理の中に好物のミートローフを発見し、ユリアンが尋ねる。先ほど、控え室からお菓子をいっぱい持ってきたでしょう? でもポケットは膨らんでいない。お腹に収納したみたい。
「食べ過ぎなければいいわよ」
注意して送り出した。ユリアーナは隣のマリネが気になるようで、一緒に向かう。
「エルヴィンはいいの?」
「今はまだ」
もう少し後で。エルヴィンの視線は壇上に向けられていた。もうすぐ挨拶が始まるので、レオンはお料理を我慢だ。
「レオン、先にご挨拶に行きましょうね。カールハインツ陛下におめでとうを言えたら、ゆっくりできるわ」
「うん、いえゆ」
僕はちゃんとできる。ぐっと拳を握り、胸元に引き寄せるレオンは頼もしい。王宮の侍従がそっと近づき、順番を告げた。ヘンリック様が腕を差し出し、私が絡める。レオンは私と手を繋いで歩いた。彼なりに気を引き締めて歩くレオンは、きりっとした顔をしている。
「国王陛下、王太后陛下、並びに王族の皆様にお祝い申し上げます。ケンプフェルト公爵ヘンリック、妻アマーリア、嫡子レオンがお目にかかります」
「おめぇとでしゅ」
通例通り、祝いと挨拶を交わす。カールハインツ様は穏やかな笑みを浮かべて玉座に腰掛け、挨拶を受けた。レオンもぺこりと頭を下げる。これからも頼りにしていると励みの言葉をいただき、次に順番を譲った。バルシュミューデ公爵、リースフェルト公爵と続く。
ほぼ全貴族の挨拶を受けるのよね。笑顔が引き攣っちゃいそうだわ。新国王陛下の苦労を思い、気の毒になってしまった。




