246.新しい王様の挨拶よ
無事にお父様達と合流し、レオンはユリアーナと手を繋いだ。離された手が寂しいわ、なんて口にしたら戻ってきそう。ユリアンはエルヴィンに手首を掴まれ、しっかり捕獲されていた。私達が来るまでに何かあったのかも。
「もうすぐ新しい王様が挨拶なさるのよ」
レオンの姉ポジションが嬉しいのか、ユリアーナは優しく面倒をみる。話しかける声に頷いたレオンは、空いた手の指を咥えた。
「どうしたの? レオン」
膝をついて視線を合わせれば、困ったように唇を尖らせた。到着した時にトイレは済ませたし、先ほどお菓子も食べていたからお腹が空いたのでもない。
「みえにゃ、い」
咥えた指を使って壇上を指差した。慌てて押さえる。王族の方がおられるから、無礼になっちゃうわ。
「レオン、抱っこしてやろう。それなら見えるぞ」
「うん」
ヘンリック様の提案で、抱き上げられて笑顔になる。椅子の上に立たせたとしても見えないでしょうし、最良の解決策ね。
「私が抱き上げても……よかったんだが」
お父様は出遅れたと残念そうに肩を落とす。やめてちょうだい、もし腰を痛めたら困るわ。そう告げたら、まだ若いと憤慨していた。確かに元気そうで安心する。
「始まるわ、レオン。しぃ、できる?」
こくんと頷いたレオンは、私の真似をして唇に指を押し当てた。人差し指を立てて、口を塞ぐ仕草をする。にっこり笑って、壇上へ目を向けた。
この位置は壁際だけれど、前の方に当たる。壇上のマルレーネ様達がよく見えた。合流した場所は後ろだったのだけれど、ヘンリック様が前に移動させたの。お父様の遠慮がちなところ、長所というより短所ね。貴族階級では舐められる原因だった。
ヘンリック様は公爵家だからというより、今まではこのぐらいの距離だった経験から前に出たみたい。隣はバルシュミューデ公爵家で、ランドルフ様も参加していた。抱っこされたレオンを見て羨ましそうなので、手招きした。
「こちらへどうぞ」
レオンを立たせるつもりだった椅子へ、彼を誘導する。靴を脱いで立つよう伝え、手を貸した。レオンより身長もあるし、前の席なので十分見える。椅子に立つのはお行儀がよい行為ではないから、ユリアンとエルヴィンで目隠しする。
ちょうどエルヴィンと頭の高さが同じくらいね。視界が開けたランドルフ様は、嬉しそうに笑ってお礼を言った。こういう場面で、公爵夫妻の人柄が窺えるわ。教育環境もそれを受け止めるご子息も、噛み合っているでしょう。
全員が前を向いたところで、太鼓の音がした。ドンと大きな音ではなく、小太鼓でリズムを刻む感じだ。期待感を高める太鼓に、自然と注目が壇上へ集まる。
「新王即位式を執り行う。カールハインツ王太子、前へ」
王妃マルレーネ様の声が、式の始まりを告げる。カールハインツ様は黒を基調とした正装姿だった。金の房が肩を覆い、大量の勲章や飾りが襟や胸元を輝かせる。斑模様の毛皮があしらわれた臙脂のマントを羽織り、凛々しい雰囲気で一歩を踏み出した。
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書き終えていたのにUPし忘れました(o´-ω-)o)ペコッごめんなさい




