236.即位式の準備が始まった
私とヘンリック様の関係が変わった日から三日後。新国王となる、第一王子カールハインツ殿下の即位式に関する通知が届いた。事前の連絡はあったので、各家は準備を進めていたはずよ。私もお父様に、弟妹の衣装を含めて準備をお願いしていた。
ヘンリック様が大量に発注したお揃いの正装があるため、ケンプフェルト公爵家は準備不要だ。新しく購入したのは、レオンの靴だけね。先日確認のために履かせてみたら、つま先が痛いと言われたの。成長の証だわ。服は仕立て直しがきくよう余裕を持たせて仕立てたけれど、靴は手直しができなかった。
靴を大きめに作れば、歩きにくいし靴擦れが出来てしまう。結局のところ、靴はこまめに作り直すしかないの。説明して、ヘンリック様に大量発注は控えるようお願いした。正装用と普段履く靴があれば足りるの。もう少し大きくなって成長が一段落したら、いくらでも注文できるわ。今は必要最低限の数でいい。
お金があるからと無駄遣いはダメ。すべて民の働いた賃金から支払われる税金なのよ。理解してもらい、今回は二足だけ注文で落ち着いた。
「お姉様、ここ……少し緩いわ」
「リリー、手直しできるかしら」
ユリアーナのドレスの調整を頼み、エルヴィンの裾を引き出す。ケンプフェルト公爵家の針子を借りる形で、全員が大騒ぎだった。お父様は問題ないと思いきや、ボタンが一つ足りなくて全部交換になった。以前なら似ているボタンをつけて終わりだったが、今回は王族の即位式だ。
フォンの称号を持つ三つの家は、王族より古い歴史を誇る。そのため、同格の貴族より上位の席に座るのが通例だった。招待状にもその旨が記載されており、体裁を整える必要がある。貴族籍を持つ者はすべて、即位式に参加する義務があった。海外に留学中の者、ケガや病で動けない人などは除外される。
跡取りのエルヴィン以外に、双子の正装も準備するので忙しかった。ユリアンはシャツがきついようで、これまた仕立て直しとなる。装飾品や小物、バッグから靴下に至るまで。すべて確認しなければ。
「奥様、こちらは新調してよろしいですか」
「……っ、そうね。お願いするわ」
ハンカチは全員新調し、専門の針子が刺繍を施す。紋章を入れるのがマナーなのよ。
レオンはちたちたと走り回り、皆を笑顔にしていた。お父様のタイピンやユリアンの靴、ユリアーナのドレスのレース、エルヴィンのカフスなど。色々と気になって声をかける。その度に「しゅごいね」「きれぇだね」と褒めるので、自然と笑顔が溢れた。
「レオン、青と紫、どちらが好き?」
今回のお揃い衣装は、リボンやクラバットの色を合わせる。レオンはじっくり選んで、青を手に取った。
「こっち」
「ありがとう、青にしましょう」
最終決定よ。私の声に、侍女や侍従が動き出す。ヘンリック様が仕事から戻る前に、ある程度決めてしまわなくては。これは女主人の仕事なんだもの。




