233.急に意識したせいで
照れてしまって眠れないかも……と思ったのに、いつの間にか眠っていた。目を閉じていたのが良かったのかも。少し寝過ごしたようで、ヘンリック様は部屋にいなかった。
正直、ほっとする。顔を合わせて、何を言えばいいか。挨拶はするわよね、その後……。
ぽっと頬が赤くなる。そこから広がるように耳や首筋も赤くなった。暑いわね。
「おかぁ、しゃま……らっこ」
両手を伸ばす甘えたな義息子を、手前に引き寄せる。膝の上に座らせたところで、侍女リリーがタオルを持ってきた。温かくしたタオルで顔を拭い、レオンはさっぱりした様子で笑う。
「おとちゃま……は?」
こてりと首を傾げた天使に、先に着替えたみたいねと微笑む。ご飯の時間と慌てるレオンが着替える間に、私も身支度を整えた。なんて声を掛けたらいいかしら。考えながら廊下を歩き、注がれる視線に気づく。
ぱっと顔を上げれば、さっと逸らされる。でも俯くと注がれる視線は、すべて使用人達だった。リリーやマーサはこんな感じじゃなかったわ。首を傾げた私はレオンと食堂へ入った。
「……これ、は……」
「しゅごぉい!」
誰かのお誕生日だった? 勘違いするほど、豪華な食事が並んでいた。朝食はわりとシンプルだったのに、食べきれないほど量も種類も多い。円卓を埋める料理に驚きながら、レオンを膝に乗せて座った。斜め隣で、ヘンリック様が微笑む。その顔がレオンと重なった。
照れちゃうわ。また頬が赤くなってないといいけれど。ぎこちなくも、いつも通りに挨拶をする。
「おはようございます、ヘンリック様」
「おはよう、アマーリア、レオン。あなた、と呼んでくれないのか?」
昨夜の呼び方を口に出され、慌てて顔を逸らした。まずい、絶対に真っ赤になったわ。壁際のフランクが、ハンカチで目元を押さえている。ベルントは涙をそのまま流しっぱなし、普段は同席しないイルゼは目が真っ赤だった。
もしかして……全員、昨夜の話を知っている、の? ヘンリック様を振り返れば、整った顔を幸せそうに崩す。笑み崩れる、って文字通りこの状態ね。苦しいくらい、胸が高鳴った。
冷たい公爵閣下として有名だったヘンリック様が、蕩けそうな顔で私を見ている。これって、昨夜の言葉が嘘じゃなくて、本当に私を愛している……。
ぽんぽんと腕を叩く振動に気付き、膝に乗ったレオンを覗き込む。
「どうしたの?」
「ご、はん」
お腹すいたと素直に訴えるレオンは、子供特有の膨らんだお腹を撫でた。あーん、と言いながら口を開けるから、近くにあったスープを与える。忙しく食べさせながら、使用人やヘンリック様の視線を意識から追い出した。
どこまでバレているのかしら。後で問い詰めるわよ。変なことまで話していたら、叱らないと。あれこれ考えながらも、顔を上げて目が合うと照れる。ダメ、強く言える自信がないわ。




