218.全部明日にしましょう
ユーリア様へ伝言を頼んだけれど、すでに聴取は終わっていた。お陰で直接、お詫びとお礼を伝えることができたわ。ぜひお茶会に呼んでくださいと、何度も言われて了承する。
微妙な顔のヘンリック様は、馬車の中でも理由を教えてくれなかった。ユーリア様と馬が合わないのかしら。
到着した屋敷では、すでに情報が伝わっていたようで。イルゼが青い顔で飛んできた。フランクも心配そうに表情を曇らせ、同行したベルントが申し訳ないと詫びる事態になる。リリーやマーサも「お守りできず」と後悔を口にした。
抱っこしたレオンは、ヘンリック様が促しても首を横に振る。私でなければ嫌だと全身で示し、今もがっちりしがみついていた。私の足を心配したヘンリック様の指示で、ひとまず絨毯の部屋に移動する。
とぼとぼ着いてきたエルヴィンは、部屋の隅で正座した。以前に私が叱るときに座らせたのを、覚えているみたい。日本人と骨格が違うのか、すぐに痛がって転がったっけ。今もぎこちない正座で反省を示している。
ユリアンは逆に、すっきりした表情だった。本当に対照的なのよね。ふと思う。ティール侯爵夫人は、長男と次男の差を理解していないのではないかと。同じように育てたら、同じ子が育つわけじゃない。うちのエルヴィンとユリアンだって、こんなに違うんだもの。
今度会って、いろいろとお話を聞いてみたいわ。考える私が座ると、上級使用人達がずらりと壁際に並んだ。
「どうしたの?」
「罰をお与えください」
肩を落とすベルントの言葉に、きょとんとした。
「なぜ?」
「若君をお守りできなかったからです」
「それは親の役目です。勝手に背負わないで頂戴」
護衛としての任務で、ケガをさせたのとは違う。貴族同士のやり取りで、友人関係を築く中で、子供は傷ついて学ぶ。誰かを傷つける痛みや、自らが泣く状況の苦しみを。覚えて繰り返さないための練習期間ね。子供にとって大事な時間だけれど、本当に危険だと思えば親が遮る。間に入って守るものなの。
この世界で貴族は偉いのかもしれない。地位も財産もあり、命令できる立場にいた。それでも我が子を守るのは親の仕事よ。勝手に背負って責任を感じるのは、間違っているわ。きちんと説明し、ベルントやリリー、マーサに責任はないと断言した。
ヘンリック様は口を挟まず、ただ聞いている。そこへ、ユリアンが口を開いた。
「リア姉、エル兄の足がやばい」
「やり直し!」
「アマーリア姉様、エルヴィン兄様の足が限界です」
やればできるのに、勝手に省略しない! めっと睨んで、エルヴィンに足を崩すよう伝えた。命じたわけじゃないけれど、反省の証に正座したエルヴィンは斜めに崩れ落ちる。あの様子だと相当痺れているわ。
「まずお風呂に入って、夕食をしっかり食べる。そして今夜はぐっすり眠りましょう。すべてはそれからよ」
話を聞くのも叱るのも、すべて明日にする。私の宣言に反対意見はなくて、そのまま決定事項となった。疲れているときに出る案や意見は、どうせ後で役に立たないんですもの。今日はもう終わりよ!




