213.王妃殿下のご友人 ***SIDE公爵夫人
表に出せない事情があって、しばらく茶会の開催を控えた。一般的には不幸と称されるが、王妃殿下にとっては幸運らしい。長男である第一王子殿下が跡を継ぐことも確定し、何も不安がないのだろう。実際、あの国王陛下が不在でも、国政は問題なく動いた。侯爵家以下はまだ知らない話だ。
外交を王妃殿下が補い、内政をケンプフェルト公爵閣下が支える。国王が飾りだと、上位の貴族ほど知っていた。その王が崩御した報せを受けて、真っ先に感じたのが安堵だなんてね。なんとも皮肉なこと。
ケンプフェルト公爵夫人は、旅行先でケガをされた。その前に何度も陛下が無茶を言うので、遠ざけるための旅行だったようだ。さらに追い討ちをかけるように手紙が届き、夫人は歩けないほどのケガを負う。これは陛下の要請を断る口実だと思ったわ。
けれど違った。ケンプフェルト公爵夫人は骨折し、屋敷を改造したと。入ってくる情報に混乱しながら、王妃殿下の茶会を思い出す。あの時、わざと仲のいい夫婦であると喧伝したけれど、あれは本当だった。仮面夫婦の噂はもう古いのだと、認識を改めた。
今回のお茶会にお招きしたのは、彼女の為人を確かめるため。交友関係を引き締めていた王妃殿下が、友人と称する女性と話してみたかったの。穏やかで常識があって、貴族特有の気取りがなかった。一緒にいて楽で、長く交友したいと感じさせる素晴らしい人よ。生さぬ仲のレオン様を可愛がるお姿も素敵ね。
社交界は人を騙し、裏を読んでばかり。殺伐とした世界で揚げ足取りをされないよう頑張った結果、悪い意味で有名になっていた。あの苦労を、アマーリア様に味わわせたくない。歪まないよう、私がお守りしなくては。
決意した直後、ティール侯爵家の次男がやらかした。何度も騒動を起こし、注意してきたのに。抑えきれないなら、除籍するべきだった。家を守るのが夫人の役割、そのためには我が子すら切り捨てる覚悟が必要だ。もちろん、その前にきちんと教育できていたら、恥をかく事もない。
義務を怠った貴族など、落ちていくだけよ。レオン様を守るランドルフまで巻き込まれ、腹立たしさが募る。ケンプフェルト公爵は駆けつけるも、手前で公爵夫人を振り返った。アマーリア様が主導権を持っているのかしら。
泣かずに堪えるレオン様の表情が、なんとも痛々しい。お優しいアマーリア様は、あの悪童達を許すのか。その程度なら、私が気にかける人ではないかも……こんな場面でも、相手の裏を図ってしまう。自分でも最低だと苦笑いしたが、彼女は予想外の対応をした。
その後の騒動も含めて、私は面倒さより楽しみを覚える。お茶会を壊された腹立たしさもかき消すなんて、初めての経験だった。王妃殿下が彼女を友人に選んだこと、英断だわ。さすがは外交の女神ね。アマーリア様の友人に加えてもらえるよう、私も本領発揮と行こうかしら。




