211.言い訳が並んで仲間割れ
ランドルフ様はどこにいるのかしら。声が聞こえないので部屋を見回し、姿が見えないことに驚く。壁際にいるエルヴィン達と一緒だと思っていた。
「ユーリア様、ランドルフ様は?」
「あの子なら、廊下にいると思いますわ。かなり興奮していたので、落ち着くまで外で待つよう言い聞かせましたから」
さらりと返された言葉に、バルシュミューデ公爵家の厳しさを知る。公爵家の次男として、余裕のない姿は人目に晒さない。驚くと同時に、日本人だった記憶がそうよねと同意した。高位貴族の言動は、様々な方面へ影響が大きい。
身勝手で独り善がりな言動をするたび、周囲は振り回されるわ。うちの教育方針にも取り入れておかないと。
「ヘルダー伯爵令息。説明しろ」
ヘンリック様は足を組み、その上に手を置いていた。両掌を合わせて指を組んだ形で、話を聞くと言ったのに拒絶される感じね。可愛い我が子を傷つけた際に関わり、その後もさらに暴言を吐いた相手なら……仕方ないのかしら。
公平さを欠くほど態度に出さないのは、偉いと思う。厳しい表情で尋ねる姿は、カッコいいわ。こんな場面で思ってはいけないのでしょうね。でも……何に例えたらいいのか……すごく、どきどきした。
「俺は、その……ティール侯爵家のオイゲン様に逆らえなくて。だって、侯爵家ですよ? だから悪いことはしていません。悪いとしたらオイゲン様ですから」
何を言っているのか、理解に苦しむわ。この子、三歳の幼子を傷つけた自覚がないのね。無言で先を促すヘンリック様の指が手の甲を叩いている。苛立っている仕草だった。
「オイゲン様がいなくても、黒髪の若君を……貶したくせに!」
バルツァー子爵令息は、何か吹っ切れた様子で叫んだ。それは嘘を暴く断罪に近く、びくりと肩を揺らしたヘルダー伯爵令息が睨む。きゅっと唇を噛んだ子爵令息は、それでも睨み返した。
自分だけ逃げるなんて許さない。僕達に押し付ける気だろう。そんな声が聞こえる気がした。
「違う、あれは……オイゲン様が言ってたから……っ!」
ここで私は立ち上がった。注目が集まる中、まずは屋敷の女主人であるユーリア様に一礼する。それからヘンリック様に微笑んだ。
「レオンとユリアーナを別の部屋で休ませたいと思います」
ぎゅっとしがみついたまま、目を閉じたレオンは震えている。この状況が怖いのよ。大きな声で喧嘩腰に怒鳴る。その響きは、さきほど脅されたばかりのレオンには強烈すぎた。はっとした顔で、ヘンリック様が許可を出す。
「侍女を連れてらしたわね。近くの客間をご用意します。ランドルフも同行させましょう」
気遣いの天才ね。ユーリア様にお礼を告げ、私達は動き出した。突然遮られた伯爵令息の呆然とした様子を、誰も気遣うことがないまま。だって、気遣いなくレオンを傷つけたんだもの。軽んじられるくらい、覚悟の上よね?




